最新記事

人種隔離

南部ジョージア州に人種隔離政策「ジム・クロウ法」が復活

Meena Harris, VP's Niece, Calls Georgia Voting Law 'The New Jim Crow'

2021年3月30日(火)19時00分
ジャック・ダットン
ケンプ知事の部屋をノックして逮捕されたとされるキャノン州議会議員

「人種隔離法」に「こっそり」署名・会見しようとする知事室のドアをノックして逮捕された州下院議員 NEWSWEEK/YOUTUBE

<現代のアメリカで、黒人の投票を難しくする法律が成立し、署名に抗議した黒人議員は逮捕された>

米ジョージア州議会は3月25日、選挙に関する州法の改正案、通称「SB(上院法案)202」を成立させた。米副大統領カマラ・ハリスの姪で弁護士のミーナ・ハリスはこの法律を白人と黒人を隔離し、黒人の投票権も実質的に剥奪した「ジム・クロウ法」の復活だ、とツイートした。ジム・クロウ法は19世紀末から1960年代まで南部諸州に存在した州法の総称だ。

SB202は共和党の主導によって、下院では賛成100反対75、上院では賛成34反対20で可決に至った。その1時間後、州知事ブライアン・ケンプの署名を経て成立している。

SB202により、ジョージア州では、不在者投票や期日前投票の実施方法、投票箱の使用に制限が加えられるほか、新たな有権者には厳しい身元確認が義務づけられる。また、郡の選挙管理委員会に問題があると州当局が判断した場合には、州当局者を選挙管理委員会の役職に送り込むことも可能になる(同州の実権は現在、共和党が握っている)。

一部の社会活動家や議員は、SB202を批判する。人種的少数派を含めた有権者の投票が抑制されるというのだ。ジム・クロウ法は、投票税を徴収したり識字テストを義務付けるなどして黒人の投票権を奪った。その狙いは、南北戦争後に黒人が手にした政治的・経済的な権利や利益を奪うこと。今もそれと同じことが起こっているという。

可決当日の夜にミーナ・ハリスは、共和党知事のケンプが6人の白人男性に囲まれて法案に署名している写真を添えて、「これは新しいジム・クロウ法だ。実際には古いジム・クロウ法と何ら変わりがない」とツイートした。

ジョージア州議会下院議員のドナ・マクラウドと、同州下院の元少数党院内総務ステイシー・エイブラムスは、この法改正を「ジム・クロウ法2.0」と断じた。

また、同州議会下院の民主党議員パーク・キャノン(黒人の女性議員)は、ケンプ州知事が法案への署名と記者会見を行っている最中に、州知事室のドアを叩いて抗議して逮捕された。警察はキャノンに対し、扉を叩くのを止めないと逮捕する、という警告を2度行なったとしている。

キャノンは2つの重罪で起訴された。逮捕記録によると、ひとつは「州議会あるいは議員による諸会議の阻止・妨害」、もうひとつは「意図的な妨害行為」だとされている。

キャノンは同日夜、フルトン郡拘置所から釈放された。彼女が姿を現すと、逮捕に抗議するために集まっていた人々が、「われわれはパーク(キャノン)を支持する!」と声を上げた。

ジョージア州では1月、連邦上院議員選挙の決選投票が行われ、争われていた2議席を民主党が奪い返して勝利を収めた。これによって連邦上院の支配権も民主党が握ることになった。共和党には屈辱的な敗北の地だ。

この連邦議員決選投票での民主党勝利に貢献したとされる人物が、ジョージア州議会下院の元少数党院内総務であるエイブラムスだ。エイブラムスは、ジョージア州のアフリカ系アメリカ人社会を中心に、投票率の向上と、ボーター・サプレッション(ライバル候補の支持者が脅して投票させない行為)の撲滅に向けて地道な運動を続けて効果を上げた。

エイブラムスは3月25日のキャノン逮捕を非難して次のように述べた。「黒人と褐色人種を標的にした、有権者の抑圧を可能にするSB202の可決に始まり、投票の権利を守ろうとした黒人議員の逮捕に終わった今日という日は、ジョージア州の暗い過去をよみがえらせるものだった。私たちは民主主義の未来のために戦わねばならない」

(翻訳:ガリレオ)

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ECB4月利下げ観測高まる、米関税懸念とインフレ鈍

ワールド

香港のデリバティブ取引急増、空前の水準に 株価乱高

ワールド

ミャンマーでM7.7の地震、マンダレーで建物倒壊 

ワールド

仏CPI、3月速報前年比+0.9%で横ばい 予想下
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:まだ世界が知らない 小さなSDGs
特集:まだ世界が知らない 小さなSDGs
2025年4月 1日号(3/25発売)

トランプの「逆風」をはね返す企業の努力が地球を救う

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影された「謎の影」にSNS騒然...気になる正体は?
  • 2
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中国・河南省で見つかった「異常な」埋葬文化
  • 3
    地中海は昔、海ではなかった...広大な塩原を「海」にした、たった一度の「大洪水」とは?
  • 4
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 5
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 6
    なぜANAは、手荷物カウンターの待ち時間を最大50分か…
  • 7
    「マンモスの毛」を持つマウスを見よ!絶滅種復活は…
  • 8
    「完全に破壊した」ウクライナ軍参謀本部、戦闘機で…
  • 9
    【クイズ】アメリカで「ネズミが大量発生している」…
  • 10
    老化を遅らせる食事法...細胞を大掃除する「断続的フ…
  • 1
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 2
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 3
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き詰った「時代遅れ企業」の行く末は?【アニメで解説】
  • 4
    「低炭水化物ダイエット」で豆類はNG...体重が増えな…
  • 5
    「テスラ離れ」止まらず...「放火」続発のなか、手放…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛…
  • 8
    【独占】テスラ株急落で大口投資家が本誌に激白「取…
  • 9
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 10
    大谷登場でざわつく報道陣...山本由伸の会見で大谷翔…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」ワケ
  • 3
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 4
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛…
  • 5
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 6
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 7
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 8
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 9
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 10
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中