最新記事

ルポ新型コロナ 医療非崩壊

医療崩壊を食い止めた人々がいた──現場が教えるコロナ「第4波」の備え方

THE GOOD “MAKESHIFTS”

2021年3月17日(水)17時30分
石戸 諭(ノンフィクションライター)

magSR210316_medical5.jpg

クラスターへの対応経験から知見を共有する重要性を説く中村郎 HAJIME KIMURA FOR NEWSWEEK JAPAN

やがて国内でも徐々に感染が広がり、容態が急変する患者も旭中央に搬入され始めたなかで、ついに大規模クラスターが発生した。中村は感染管理認定看護師・宮本頼子らと共に3月29日に障害者施設に入り、すぐに事態の深刻さを痛感することになる。報道時点で陽性者は58人だったが、陽性者の数は膨れ上がり、3月末までに93人が確認された。県、国のクラスター対策班などと結成した対策本部はすぐに方針を打ち出す必要に迫られる。

当時、厚労省の方針は陽性者の全員入院だったが、増え続ける陽性者は県内の医療機関には到底収容しきれない。現場が導き出した方針は、「育成園全体を病院にする」ことだった。彼らのミッションは感染拡大を食い止め、流行を沈静化させること。重症者以外は入院させず、軽症者は全て施設内で診療すると決めた。

最初に取り組んだのは施設全体の厳格なゾーニングである。入所者の個室もある施設のほぼ全域の感染区域を「レッドゾーン」に指定し、施設職員や介護者にもPPEの着用を求めた。指導に当たったのは宮本たち看護師だ。ごくわずかな清潔なエリア「グリーンゾーン」は対策本部が使った。82人の入所者、通所者のうち「コロナ」という言葉が分かるのは2人ほどで多くは言葉によるやりとりも難しい。当然ながらマスクや手洗いの呼び掛けも徹底できない。

施設内のある部屋には、普段から仲がいい男性2人が同じベッドで寝ていた。その時点で1人は陽性で、1人は陰性だ。2人を引き離すのではなく、共に陽性者として扱うことが求められる。そんな現場だった。

4月21日のピーク時には職員も含め陽性者数は121人になったが、その後1カ月ほどで減少していった。入院は約15人で、最終的に死亡者は2人である。これは驚異的と言っていい数字だろう。職員たちも防護に習熟し、当初は誰もが先が見えないと思っていたクラスター対策は6月4日に完全に収束した。

magSR210316_medical7.jpg

コロナ感染リスクのないグリーンゾーンであることが一目で分かる旭中央病院内の掲示 旭中央病院提供


新人看護師が立派な戦力に

旭中央では知的障害のある患者の入院も受け入れた。彼らは新型コロナに感染しているにもかかわらず、病室から出ようとする。最初は、看護師数人で身体を固定して点滴などをしていたが、それはかえって逆効果だった。点滴のたびに飛沫は飛び散り、それとは別に看護師4人がかりで身体を拭くといった生活面のサポートも必要だった。

負担を軽減するため彼らは知恵を出し合った。病室内ベッドを布団に変えて、慣れている施設の環境に近づけてはどうか。効果はてきめんに表れ、患者たちは徐々に環境に慣れて、すんなりと治療が進むのだった。

彼らは初期に「最悪の事態」を経験したことで少なくとも3つの重要な知見を手に入れた。第一に不安は知識と現場の実践で軽減できること。第二に新型コロナは専門医にしか治療できない病気ではないということ。第三に地域全体で診療する体制をつくるため、責任を持って関与できる範囲を示すことである。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

カナダ・メキシコ、米の一律関税免除 移民・麻薬巡る

ビジネス

関税でインフレ長期化の恐れ、輸入品以外も=クーグラ

ワールド

イラン核開発巡る新たな合意不成立なら軍事衝突「ほぼ

ビジネス

米自動車関税、年6000億ドル相当対象 全てのコン
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    あまりにも似てる...『インディ・ジョーンズ』の舞台になった遺跡で、映画そっくりの「聖杯」が発掘される
  • 2
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2…
  • 5
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 6
    イラン領空近くで飛行を繰り返す米爆撃機...迫り来る…
  • 7
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 8
    博士課程の奨学金受給者の約4割が留学生、問題は日…
  • 9
    トランプ政権でついに「内ゲバ」が始まる...シグナル…
  • 10
    【クイズ】アメリカの若者が「人生に求めるもの」ラ…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 3
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「最大の戦果」...巡航ミサイル96発を破壊
  • 4
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 5
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 6
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 7
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 8
    突然の痛風、原因は「贅沢」とは無縁の生活だった...…
  • 9
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 10
    なぜ「猛毒の魚」を大量に...アメリカ先住民がトゲの…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 3
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中