最新記事

水生生物

親指の爪ほどの貝がインフラを破壊する 侵略的外来種ゼブラガイ

Where Invasive Zebra Mussels Came From Amid Warning They Are in 21 States

2021年3月10日(水)20時56分
ジェイソン・マードック
ゼブラガイ 侵略的外来種

シマウマのような縞模様がゼブラガイという名前の由来 RLSPHOTO/iStock.

<ウクライナから輸入した市販用のマリモにそれはいた。当局が調査に乗り出すと、全米21州のペットショップで売られていた>

侵略的外来種の二枚貝がアメリカ国で急速に分布域を広げている。水槽装飾用のマリモに付着しているのを発見された事例が、全米21州のペットショップで確認された。

この貝の名は、「zebra mussels(ゼブラガイ、またはカワホトトギスガイ)」。アメリカ地質調査所(USGS)が最近、この貝の調査を行い注目を集めた。調査のきっかけは、あるペットショップの店員が、水槽の装飾に使うマリモ製品にゼブラガイが付着しているのに気がついたこと。全米に展開するペットショップチェーン、ペトコ(PetCo)のワシントン州シアトル店でのことだ。

いま専門家は、一般消費者向けに市販されているマリモに付着する形で、ゼブラガイが想像以上に広まっているのではないかと危機感をいだいている。

ゼブラガイは、指の爪ほどの大きさで、中央アジアのカスピ海原産だ。大発生すると発電所や浄水場の取水口を詰まらせたり上水道を機能不全に追い込む、漁船やボートに損害を与えるなどの被害があることから、侵略的外来種に指定されている。

210310mussel.png
マリモのなかに発見されたゼブラガイ   Colorado Parks and Wildlife

USGSによれば、今回問題になったマリモはウクライナから輸入された。現在、小売業者が店頭からの撤去を進めている。

米魚類野生生物局(FWS)によると、ゼブラガイは幼生期には顕微鏡で見ないとわからないほど小さいため、気づかないうちに遠くへ運ばれてしまう。幼生はその後、稚貝の時期を経て成体へと成長する。1匹の雌は年に数百万匹の幼生を生むため、わずか少匹でも湖などに入れば水底はあっという間に覆い尽くされてしまう(次頁の動画参照)。

トイレに流さないで

「成体のゼブラガイは水のない場所でも数日間は生存可能で、ボートや漁業用具に『ヒッチハイク』するケースも多い」とFWSはいう。

このファクトシートには、こうも記されている。「ゼブラガイは、サイズこそ小さいが、水の濾過に使われるパイプを詰まらせたり、海岸を利用できなくしたり、ボートやインフラに被害を与える。在来生物を脅かし、水中の生態系にも悪影響を与える」

アメリカの五大湖には、ヨーロッパから来た船から放出されたバラスト水経由で、1980年代に到来したと考えられている。

今回のケースでは、マリモへの付着に気づいたペトコの従業員が、2月25日にUSGSの海生生物非在来種データーベースにレポートを提出。専門家の目にとまった。そこには「過去2カ月の間に開封したほぼすべての貨物で、マリモの中にゼブラガイが生息していた」と書かれていた。

調査に乗り出したUSGSによれば、3月8日の時点で、販売されているマリモにゼブラガイが付着していた事例は、アラスカ、カリフォルニア、コロラド、フロリダなど21州から報告されているという。

該当するマリモを最近購入した消費者には廃棄を要請しているが、水洗トイレに流しても死なず、かえって環境に害を及ぼす。確実に廃棄するには、冷凍する、煮沸する、塩素系漂白剤を使う、原液のままの酢に浸すといった方法が推奨されている。

(翻訳:ガリレオ)

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正

ワールド

イスラエル政府、ガザ停戦合意を正式承認 19日発効

ビジネス

米国株式市場=反発、トランプ氏就任控え 半導体株が

ワールド

ロシア・イラン大統領、戦略条約締結 20年協定で防
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 3
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲うウクライナの猛攻シーン 「ATACMSを使用」と情報筋
  • 4
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 5
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 6
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者…
  • 7
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 8
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさ…
  • 9
    「ウクライナに残りたい...」捕虜となった北朝鮮兵が…
  • 10
    雪の中、服を脱ぎ捨て、丸見えに...ブラジルの歌姫、…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 5
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 6
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 7
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 8
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 9
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 10
    大麻は脳にどのような影響を及ぼすのか...? 高濃度の…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    ロシア軍は戦死した北朝鮮兵の「顔を焼いている」──…
  • 7
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 8
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中