弾劾無罪でも、共和党の「トランプ離れ」は始まった
A Grand Old Identity Crisis
もう片方にいるのは、今も最も力のある共和党政治家の1人であるマコネルや、やはり次期大統領選への出馬が有力視されているリズ・チェイニー下院議員といった人々だ。チェイニーは弾劾裁判で有罪に賛成して保守派を驚愕させたが、それでも党の要職に留まることができている。中間よりもやや反トランプ派寄りなのがニッキー・ヘイリー元国連大使で、彼女も24年の大統領候補指名に熱意を見せている。
かつてはトランプに忠誠を誓っていたヘイリーだが、オンラインメディア「ポリティコ」との最近のインタビューで、議会襲撃事件を巡るトランプの言動、特にバイデン当選を承認するのに同意したマイク・ペンス副大統領(当時)に対する態度に「嫌気が差した」と述べた。
「彼(トランプ)は今後、自分が孤立の度を深めていることに気付くと思う」とヘイリーは述べた。「現に彼のビジネスはすでに悪影響を被っているはずだ。本来持っていたはずのいかなる政治的可能性も(議会襲撃事件で)失ったと思う」
マコネル院内総務の発言の破壊力
最も持続的な影響力を持っているのはマコネルの発言かも知れない。無罪に票を投じつつトランプを批判したことで二兎を追ったような印象を与えたかも知れないが、彼の発言は共和党の政治家にとって、成功が欲しければ単にトランプ寄りであればいいというのはもはや真実ではないことを示唆している。
「彼は無罪放免になったわけではない」とマコネルは言った。つまり在任中の行為を巡ってトランプが、刑事・民事の両方で訴えられる可能性はまだあるとはっきり述べたわけだ。トランプは刑事訴追への懸念を口にしたと伝えられており、実際にジョージア州で選挙結果を覆そうとした問題を巡って刑事捜査の対象になっている。また、ニューヨーク州の検察当局も彼のビジネスに関連して刑事捜査を行っている。
マコネルがトランプと距離を置いたことについて世論調査専門家のスタンリー・グリーンバーグは、共和党内の「内戦」が始まるきっかけになりうると述べた。ただしマコネルが勝利するとは限らない。
「マコネルのスピーチの重要性は、ひどく過小評価されていると思う」と、グリーンバーグは電子メールで述べた。「あのスピーチは、ドナルド・トランプを莫大な費用がかかる民事および刑事訴追で締め上げてくれ、という司法省と州当局への合図だった」
マコネルは票の読み方を心得た老練な政治家だ。2月13日の夜のポリティコの取材に対し、共和党の大統領候補を決める予備選挙でトランプが反対するかもしれない候補者を出すつもりだ、と語った。「私が気にするのは当選の見込みがあるか否かだけだ」
ということは、マコネルはトランプを政治的に有害な存在と見なし始めていると推測できる。「トランプ大統領に議事堂乱入事件を引き起した実質的かつ道徳的責任があることは疑いの余地がない」と、彼は1月6日の暴動について述べた。
「議事堂を襲撃した人々は、トランプの望みを叶えるために行動していると信じていた。『影の政府』がアメリカを乗っ取ろうとしていると何週間も煽り続けたあげく、それを信じた聴衆が暴徒と化したとたんに驚いたふりをするとは、自由世界の指導者である大統領のすることではない」
トランプ切り捨ては可能?
トランプを厳しく批判したことによって、マコネルは共和党を守った。それは自分自身の政治的将来を危険にさらす覚悟のうえの選択だった、とブルッキングス研究所の民主党ストラテジスト、エレイン・カマルクは指摘する。「有罪判決に加担しないことで、彼は共和党の仲間を守った」と、カマルクは言う。「そして党のためにトランプを悪者にすることに決めたのだ」
マコネルや他の共和党幹部がトランプをうまく切り捨てられるかどうかという問題は、まず2022年の中間選挙で問われることになるだろう。彼らはトランプに嫌悪感を抱いているが、多くの共和党員はトランプの政策と世界に対する姿勢を支持し続けている。
「残念ながら、一度のスピーチでトランプから影響力を奪えるかどうかは、私にはわからない」と、保守的なシンクタンク、アメリカン・エンタープライズ公共政策研究所のダニエル・プレツカは電子メールで述べた。
おそらくトランプの最も忠実な閣僚だったポンペオは、トランプ後継の有力候補かもしれない。退任以来、ポンペオはトランプのおかげで今日のアメリカは「4年前よりずっと安全」になったし、「アメリカは世界で信用を回復した」と主張してきた。中国の習近平国家主席と2時間にわたって電話会談したバイデンには、中国に「正面から」立ち向かえと迫った。