最新記事

弾劾裁判

弾劾無罪でも、共和党の「トランプ離れ」は始まった

A Grand Old Identity Crisis

2021年2月15日(月)18時05分
マイケル・ハーシュ

もう片方にいるのは、今も最も力のある共和党政治家の1人であるマコネルや、やはり次期大統領選への出馬が有力視されているリズ・チェイニー下院議員といった人々だ。チェイニーは弾劾裁判で有罪に賛成して保守派を驚愕させたが、それでも党の要職に留まることができている。中間よりもやや反トランプ派寄りなのがニッキー・ヘイリー元国連大使で、彼女も24年の大統領候補指名に熱意を見せている。

かつてはトランプに忠誠を誓っていたヘイリーだが、オンラインメディア「ポリティコ」との最近のインタビューで、議会襲撃事件を巡るトランプの言動、特にバイデン当選を承認するのに同意したマイク・ペンス副大統領(当時)に対する態度に「嫌気が差した」と述べた。

「彼(トランプ)は今後、自分が孤立の度を深めていることに気付くと思う」とヘイリーは述べた。「現に彼のビジネスはすでに悪影響を被っているはずだ。本来持っていたはずのいかなる政治的可能性も(議会襲撃事件で)失ったと思う」

マコネル院内総務の発言の破壊力

最も持続的な影響力を持っているのはマコネルの発言かも知れない。無罪に票を投じつつトランプを批判したことで二兎を追ったような印象を与えたかも知れないが、彼の発言は共和党の政治家にとって、成功が欲しければ単にトランプ寄りであればいいというのはもはや真実ではないことを示唆している。

「彼は無罪放免になったわけではない」とマコネルは言った。つまり在任中の行為を巡ってトランプが、刑事・民事の両方で訴えられる可能性はまだあるとはっきり述べたわけだ。トランプは刑事訴追への懸念を口にしたと伝えられており、実際にジョージア州で選挙結果を覆そうとした問題を巡って刑事捜査の対象になっている。また、ニューヨーク州の検察当局も彼のビジネスに関連して刑事捜査を行っている。

マコネルがトランプと距離を置いたことについて世論調査専門家のスタンリー・グリーンバーグは、共和党内の「内戦」が始まるきっかけになりうると述べた。ただしマコネルが勝利するとは限らない。

「マコネルのスピーチの重要性は、ひどく過小評価されていると思う」と、グリーンバーグは電子メールで述べた。「あのスピーチは、ドナルド・トランプを莫大な費用がかかる民事および刑事訴追で締め上げてくれ、という司法省と州当局への合図だった」

マコネルは票の読み方を心得た老練な政治家だ。2月13日の夜のポリティコの取材に対し、共和党の大統領候補を決める予備選挙でトランプが反対するかもしれない候補者を出すつもりだ、と語った。「私が気にするのは当選の見込みがあるか否かだけだ」

ということは、マコネルはトランプを政治的に有害な存在と見なし始めていると推測できる。「トランプ大統領に議事堂乱入事件を引き起した実質的かつ道徳的責任があることは疑いの余地がない」と、彼は1月6日の暴動について述べた。

「議事堂を襲撃した人々は、トランプの望みを叶えるために行動していると信じていた。『影の政府』がアメリカを乗っ取ろうとしていると何週間も煽り続けたあげく、それを信じた聴衆が暴徒と化したとたんに驚いたふりをするとは、自由世界の指導者である大統領のすることではない」

トランプ切り捨ては可能?

トランプを厳しく批判したことによって、マコネルは共和党を守った。それは自分自身の政治的将来を危険にさらす覚悟のうえの選択だった、とブルッキングス研究所の民主党ストラテジスト、エレイン・カマルクは指摘する。「有罪判決に加担しないことで、彼は共和党の仲間を守った」と、カマルクは言う。「そして党のためにトランプを悪者にすることに決めたのだ」

マコネルや他の共和党幹部がトランプをうまく切り捨てられるかどうかという問題は、まず2022年の中間選挙で問われることになるだろう。彼らはトランプに嫌悪感を抱いているが、多くの共和党員はトランプの政策と世界に対する姿勢を支持し続けている。

「残念ながら、一度のスピーチでトランプから影響力を奪えるかどうかは、私にはわからない」と、保守的なシンクタンク、アメリカン・エンタープライズ公共政策研究所のダニエル・プレツカは電子メールで述べた。

おそらくトランプの最も忠実な閣僚だったポンペオは、トランプ後継の有力候補かもしれない。退任以来、ポンペオはトランプのおかげで今日のアメリカは「4年前よりずっと安全」になったし、「アメリカは世界で信用を回復した」と主張してきた。中国の習近平国家主席と2時間にわたって電話会談したバイデンには、中国に「正面から」立ち向かえと迫った。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、米軍制服組トップ解任 指導部の大規模刷

ワールド

アングル:性的少数者がおびえるドイツ議会選、極右台

ワールド

アングル:高評価なのに「仕事できない」と解雇、米D

ビジネス

米国株式市場=3指数大幅下落、さえない経済指標で売
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    メーガン妃が「アイデンティティ危機」に直面...「必死すぎる」「迷走中」
  • 4
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 5
    深夜の防犯カメラ写真に「幽霊の姿が!」と話題に...…
  • 6
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 7
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 8
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 9
    トランプが「マスクに主役を奪われて怒っている」...…
  • 10
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 4
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 9
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 10
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
  • 10
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中