最新記事

ミャンマー

中国はミャンマーの軍事クーデターを支持したのか

Is Beijing Backing the Myanmar Coup?

2021年2月3日(水)17時49分
アゼーム ・イブラヒム(グローバル政策センター所長)

クーデターを起こしたミャンマー国軍のミンアウンフライン将軍に抗議する人々(2月3日、タイのバンコクで) Athit Perawongmetha-REUTERS

<クーデターを起こした軍司令官は、1月に中国の外相と会談を行っていた。安保理での制裁を免れるために、クーデター実行前に中国の支持を取り付けていた可能性もある>

2月1日にミャンマーの全権力を掌握した国軍は1月末からクーデターの可能性をほのめかしていたが、それは海外の観測筋にとってまったく予想外のことだった。

国軍総司令官のミンアウンフライン将軍を行動にかりたてたのは、昨年11月8日の総選挙におけるアウンサンスーチー率いる国民民主連盟の圧倒的勝利だったのかもしれない。それによって勢いづいた国内の民主化勢力が、国軍という組織から権力の一部を剥奪するのではないかという切迫した不安のせいなのか、それとも他の最近の出来事がきっかけになったのか、理由はまだ明らかになっていない。

今回のクーデターは、2020年11月の総選挙の不正を口実にしており、アメリカの大統領選挙におけるドナルド・トランプ陣営の主張と不気味に似ているばかりか、メリットに欠ける点も同じだ。

しかし今回最も重要だったのは、中国の動きだったかもしれない。1月に行われた中国の王毅(ワン・イー)外相とミンアウンフラインの会談がクーデターを決定する上で極めて重要な契機となった可能性があるからだ。中国とアメリカのこの危機に対する出方は、両国の関係の重要な節目になりそうだ。

中国は誰の味方か

ミャンマー国軍は昨年11月以来、総選挙の不正を訴えてきた。だが軍幹部は、西側が主導する国連安保理の制裁や非難決議を、中国が盾となって防いでくれるという確信がないかぎり、行動を起こすことをためらったはずだ。隣国中国との経済的関係を拡大できれば制裁を相殺できるとの思いもあったかもしれない。その会談で話し合われた何かによって、軍幹部は、中国にはミャンマーの味方になる用意があると信じたようだ。

だが不思議なことに、中国政府はこれまで、ミャンマーの軍事政権よりもアウンサンスーチー率いる文民政府との距離を縮めてきていた。それは多分に国軍のせいだった。国軍は外国に依存することを極度に嫌い、国際的に孤立するほうを選んできた。社会主義国家として思想を同じくしていた中国のような国に対してさえ、態度は同じだった。

軍部が民主主義に適応するのに10年もがかり、中国が援助する総工費36億ドルのミッソン・ダムのような大型プロジェクトを停止したのは、中国に依存することへの恐れが原因だった。

だから、おそらくフラインが両国間の経済的関係を継続し、深化させると約束したことで、中国側がクーデター計画を止めることを躊躇したのだろう。中国が進めるダムの建設プロジェクトが、移転に対する地元住民の反発を無視して再開されるとなれば、それはミャンマーが中国に軸足を移す大きな兆候になるはずだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、米軍制服組トップ解任 指導部の大規模刷

ワールド

アングル:性的少数者がおびえるドイツ議会選、極右台

ワールド

アングル:高評価なのに「仕事できない」と解雇、米D

ビジネス

米国株式市場=3指数大幅下落、さえない経済指標で売
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 4
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 5
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 6
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 7
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 8
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 9
    メーガン妃が「アイデンティティ危機」に直面...「必…
  • 10
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ...犠牲者急増で、増援部隊が到着予定と発言
  • 4
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    墜落して爆発、巨大な炎と黒煙が立ち上る衝撃シーン.…
  • 9
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 10
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 10
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中