韓国1月1日から堕胎罪が無効に 女性と医師のみ罪に問われる社会は変わるか
経験少ない医師に妊娠中絶手術の教育が必要に
今回、堕胎罪が無効になる1月1日を前に、廃止を求めていた女性たちは、コロナウイルスの感染対策で集会が禁止されているため、メッセンジャーアプリのカカオトークのグループトークにて、オンラインでのカウントダウンを行ったという。
また、堕胎罪廃止を支持してきた革新系新聞ハンギョレでは、「堕胎罪廃止」と銘打った特設ウェブページ(http://www.hani.co.kr/arti/delete)を開設し応援してきた。特設ページには、堕胎罪に関する年表や、デモ活動の写真、さらには効力失効までの時間を表示するデジタル時計でカウントダウンを行うほどの熱の入れようだった。
もちろん、人工妊娠中絶はセンシティブで簡単なことではないため、様ざまな課題は残されている。
まず、一番大きな問題は、医師だ。妊娠中断を犯罪で規定した1953年以後、医学大教育課程で人工妊娠中絶施術関連の教育が徐じょに減らされていった。
もしも今後、中絶手術を望む女性が増えたとしても、失敗などは許されない分野だからこそ、今後は中絶手術の教育や実習を増やしていく必要がある。
さらに、先日行われた国会公聴会では「妊娠22週までの人工妊娠中絶を認めた場合、取り出した胎児は生きている可能性もある。その場合医療陣が胎児を殺さなくてはならず、その苦しみも考慮すべきだ」という医療現場からの意見も重要視された。
これに関しては、先日大韓産婦人科学会と大韓産婦人科医者会が「妊娠22週以降の人工妊娠中絶は行わない」という意思を記載した共同声明を公式発表するなど、医療の現場でも混乱が続いている。
カトリック司教は100万人の「廃止反対」署名
そして、堕胎罪については倫理問題も大きくかかわっている。堕胎罪廃止についてはカトリック系教会から強い反対意見が出ている。カトリック司教会議議長であるキム・フィジュン大主教と数名が、2019年3月ソウル憲法裁判所に堕胎罪廃止反対の100万人余りの署名と嘆願書を提出したことは有名だ。また、先月21日韓国キリスト教公共政策協議会は「国会は堕胎罪関連法を改正すべきだ」という主張の声明文を出した。
さらに韓国国会の国民同意請願の掲示板に投稿された「堕胎罪廃止反対」の請願は、10万人の同意を得て所管の国会保健福祉委員会と法制司法委員会に回付されている。
もちろん、すべての妊娠が望まれたもので、すべての赤ちゃんが幸せに包まれながら生まれてくることが理想だろう。しかし、そうでない妊娠も確実に存在する。
今回の韓国の例のように廃止へ一歩近づいた国もあれば、昨年10月にはポーランドで実質的なすべての人工妊娠中絶(胎児の異常なども含む)が違法という裁判判決を出した国もある。また、2019年にはアメリカのアラバマ州やミズーリ州などで中絶禁止法が可決されたことに反対し、SNS上で自分の中絶体験を語る#YouKnowMe運動が起きるなど、中絶をめぐる議論は世界各国で起きている。
さて、日本でも刑法第2編第29章に「堕胎の罪(刑法212〜216条)」がしっかりと記載されている。今回韓国で起きた事例は、日本の女性たちにも他人事ではない。
人工妊娠中絶に関しては、宗教や倫理問題が関わるので複雑だ。賛否両論あるのは当たり前である。だからこそ、今回の韓国の例をきっかけに「堕胎の権利」と「女性そして医師にのみ罪が課せられる現実」について一度考える必要がある。