新型コロナワクチン、開発競争の裏でもう一つの課題 極低温輸送の準備急ぐ航空各社
ドライアイスでは限界あり
だが、ワクチン輸送における難問の1つは、航空機では限られた量のドライアイスしか運べないという点だ。ドライアイスは凍らせた二酸化炭素であり、時間が経つにつれて気体に戻り、機内の呼吸可能な空気を追い出してしまうからだ。
DHLが作成したワクチン輸送に関する白書によれば、ワイドボディの航空機の場合、どの機種でも、冷蔵・断熱コンテナで運搬可能なドライアイスは最大で約1トンだという。
フランクフルト航空貨物協会のヨアヒム・フォン・ビニングCEOは「機種にもよるが、通常は、一度に運べる冷蔵・断熱コンテナは数個に留まる」と話している。
代替案としてドイツポスト傘下のDHLが利用してきたのは、クライオポートが製造するカプセル・コンテナだ。DHLグローバル・フォーワーディンでグローバル規模の温度管理ソリューションを担当するパトリシア・コール氏によれば、このコンテナは液体窒素によって貨物を最低マイナス150度、最長10日間維持するもので、ワクチン治験の支援に用いられているという。
これは比較的小規模なソリューションで、コンテナ1個あたりで医薬品の瓶を数百本しか納められないが、すでに広い範囲で準備が始まっている。
ファイザーは米国内でのワクチン流通に向けDHL、フェデックス、ユナイテッド・パーセル・サービス(UPS)と協力を進めており、16日の発表によれば、全米及びグローバル規模の輸送計画を練り上げるために、4州で試験的な配送プログラムを開始したという。
また、ファイザーはドライアイスを利用してワクチンを最長10日間、マイナス70度前後に維持するGPS追跡可能な温度管理ボックスを開発した。
ただ、スウェーデンのエンビロテイナーなどの冷蔵輸送ソリューション事業者は、中身の冷却に電気モーターを利用する、いわゆる「アクティブコンテナ」の方が、安全性も高くコスト効率も良いと話している。
エンビロテイナーの広報担当者は、アクティブ温度管理コンテナを用いた同社の輸送フリートは競合他社の2倍の規模であり、さらに輸送能力を50%拡大すべく準備を進めていると話す。
バキューテックも今月、COVID-19用ワクチン輸送の受注を期待して、今後数カ月間でコンテナ輸送フリートを大幅に拡大すると発表している。
今年はパンデミックに関連した渡航制限のもとで旅客数が急減しており、航空会社の収益源として貨物輸送の比重が増している。
アクセンチュア傘下のシーベリー・コンサルティングでは、ワクチンがグローバル規模で配布されることにより、6万5000トン相当の航空輸送が発生すると試算している。これは2019年の航空機によるワクチン輸送実績の5倍に当たる。
とはいえ、KLMのピーター・エルバースCEOが今月11日のCAPAセンター・フォー・エイビエーションのイベントで語ったように、航空会社にとっては、ワクチンによって従来のように旅行できる状況が戻る可能性が何よりも重要である。「航空産業全体にとって、ワクチンの重要性は、それによって生まれる航空貨物収入よりもはるかに大きなものになると考えている」とエルバースCEOは語った。
Laurence Frost and Ilona Wissenbach(翻訳:エァクレーレン)

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