最新記事

感染症対策

トランプが頼った簡易検査の罠 ホワイトハウスさらなる感染者も

2020年10月5日(月)21時34分

新型コロナウイルスのパンデミックが始まった早いころから、トランプ米大統領はトースターぐらいの大きさで、ウイルス検査結果が十数分ほどで分かる簡易検査装置に強い信頼を寄せていた。写真中央は2日、メリーランド州ベセスダでヘリコプターを降りるトランプ大統領(2020年 ロイター/Joshua Roberts)

新型コロナウイルスのパンデミックが始まった早いころから、トランプ米大統領はトースターぐらいの大きさで、ウイルス検査結果が十数分ほどで分かる簡易検査装置に強い信頼を寄せていた。米医薬品大手アボット・ラボラトリーズ開発の「ID NOW」だ。

3月下旬のホワイトハウスのローズガーデンでのイベントでは、同検査装置が承認されたことを称賛。新型コロナを寄せ付けないためとして、ホワイトハウスでの広範な使用も容認していた。マスク着用や社会的距離といった、政権として打ち出したはずの推奨を頻繁に無視することについては、自分の周囲はだれもがこの装置で検査されているからだと説明してきた。

しかし、同氏の戦略は新型コロナに通用しなかった。大統領は10月2日に自身とメラニア夫人の陽性反応を公表。他の政権高官の健康への懸念も高まり、11月3日の大統領選挙までの数週間を混乱に突き落とした。

検査はウイルスの障壁にならない

バンダービルト大学医学部のウィリアム・シャフナ-教授(感染症)は「残念ながらホワイトハウスとそのスタッフが限界のある簡易検査に頼ったことが、彼らにウイルスを抑制しているとの誤った安全認識を与えた」と話す。「検査は人とウイルスの障壁になってくれるわけではない。だれもがマスクと社会的距離が必要だし、だれもがあのような選挙集会に行ってはいけない」

簡易検査は隔離措置とともに用いる設計ではない。簡易検査が陰性になっても、それは検査時の状態をざっくり把握したにすぎない。検査直後の感染を防ぐものではない。さらに新型コロナの場合、体内のウイルスが検出可能な量に増える前の数日間でも他人にうつす可能性がある。

サウスカロライナ医科大学のクルティカ・クッパリ准教授(感染症)によると、簡易検査がコロナの無症状の段階の感染者に対し、どう効果があるかもきちんとは分かっていない。「トランプ氏の行動はリスクだらけだったから、今回のようなことになるのは実際のところ、時間の問題だった。マスクさえしていれば、たとえ感染者の周囲にいたとしてもトランプ氏は感染を避けられたのではないか」と言う。

手軽な方法、正確さには疑義

開発したアボットの広報担当者は、米国で緊急使用が3月に承認され国内で1100万人以上が利用したこの簡易装置について、信頼できる結果を出していると述べた。

新型コロナのウイルス検査の主流はPCR検査で、これは専門施設で解析、判定するが、結果判明には数時間から数日かかることがある。これに対し、ID NOWはその場で13分以内に結果が分かるとされ、装置の持ち運びもできる、という2大長所がある。患者の鼻腔内をぬぐって採取したサンプルを温めてウイルスの遺伝子物質を増やす方式だ。

ホワイトハウスはここ最近のトランプ氏らの簡易検査の詳細を公表していない。スタッフや来訪者への日常的な簡易検査が正確な結果を出さなかったという証拠もないし、トランプ氏とヒックス氏がよそでなくホワイトハウスで感染したという証拠もない。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ロシア中銀、金利21%に据え置き 貿易摩擦によるイ

ワールド

ルビオ氏、米国務省の欧州担当トップに元側近起用 欧

ビジネス

米ミシガン大消費者信頼感、低下続く 4月確報値52

ビジネス

金融市場、関税政策に適応=トランプ氏
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    トランプ政権の悪評が直撃、各国がアメリカへの渡航勧告を強化
  • 3
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは?【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    アメリカ鉄鋼産業の復活へ...鍵はトランプ関税ではな…
  • 6
    関税ショックのベトナムすらアメリカ寄りに...南シナ…
  • 7
    ビザ取消1300人超──アメリカで留学生の「粛清」進む
  • 8
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 9
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 10
    ロケット弾直撃で次々に爆発、ロシア軍ヘリ4機が「破…
  • 1
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 4
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 5
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず…
  • 8
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 9
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 10
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 8
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 10
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中