最新記事

北朝鮮

金正恩「女子大生クラブ」主要メンバー6人を公開処刑

2020年10月1日(木)13時40分
高英起(デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト) ※デイリーNKジャパンより転載

法規定よりも最高指導者の意思が重要視されるのが北朝鮮 KCNA/REUTERS

<今年7月、首都・平壌の総合レジャー施設で組織的な売春を行っていたグループが摘発された>

北朝鮮で売春は違法だ。刑法249条「売淫罪」では「売淫行為を行った者は1年以下の労働鍛錬刑に処す。前項の罪状が重い者には5年以下の労働教化刑に処す」とされている。また、行政罰を定めた行政処罰法220条「売淫行為」は「売淫行為を行ったり、それを助長、仲介、場所を提供した者には罰金または3カ月以下の労働教養処分とする」としている。

これは、1990年代後半の大飢饉「苦難の行軍」のころ、生きていくために売春を行う女性が増えたことに対処するために、2004年の法改正のときに新設されたものだが、その後も売春の摘発事例は枚挙に暇がない。

今年7月には、首都・平壌の総合レジャー施設で組織的な売春を行っていたグループが摘発された。北朝鮮の首都・平壌の司法機関の幹部が、米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)に事件の詳細を語った。

市内の東大院(トンデウォン)区域にある紋繍院(ムンスウォン)は、1982年に完成した総合レジャー施設で、1階には大浴場、プール、2階には家族風呂と個人風呂、理容室、美容室がある。

男女のカップルが家族風呂に入るには、結婚証明書が必要となるが、規制が「金のなる木」になるのが北朝鮮の常。一般人が気軽に利用できる宿泊施設が存在しないため、ラブホテル代わりに使われ、不倫の温床となっている。

<参考記事:北朝鮮で「サウナ不倫」が拡大か...金正恩氏も止められず

そんな紋繍院の責任者が、有名映画俳優、平壌音楽舞踊大学、平壌演劇映画大学の教授らに声をかけ、ビジネスを始めることにした。在学中の20代前半の女子学生に「1カ月に500ドル(約5万3000円)以上儲かる仕事がある」などと声をかけ、施設内のカラオケ店で売春をさせるというものだ。客は、中央や平壌市党(朝鮮労働党平壌市委員会)の幹部らだった。

教育当局は、大学に対して頻繁に「経済課業(ノルマ)」の指示を下し、学生たちは様々な名目で金品を納めることを強いられていた。また、教授への付け届けなど、北朝鮮での学生生活は何かと物入りだ。紋繍院の責任者や教授らは、そんな女子学生の足元を見たのだろう。

ところが、組織は一網打尽にされた。声をかけられついて行ったものの、売春だとは知らずに性行為を強要された女子学生が通報したのだ。

司法当局は現場で関係者を逮捕、取り調べ、その結果は金正恩党委員長に報告された。前述の幹部によると、それを受けて金正恩氏は、自分が大事にしている平壌音楽舞踊大学、平壌演劇映画大学の学生が売春に加担したことに激怒、組織の主要メンバーらの銃殺を指示したもようだ。

<参考記事:女性芸能人らを「失禁」させた金正恩の残酷ショー

そして、市内の龍城(リョンソン)区域の和盛洞(ファソンドン)で7月20日、平壌市党の幹部4人と斡旋者2人が公開銃殺にされた。「5年以下の労働教化刑」という法規定を大幅に上回る判決だが、法よりも最高指導者の意思が重要視されるのが北朝鮮なのだ。

[筆者]
高英起(デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト)
北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。関西大学経済学部卒業。98年から99年まで中国吉林省延辺大学に留学し、北朝鮮難民「脱北者」の現状や、北朝鮮内部情報を発信するが、北朝鮮当局の逆鱗に触れ、二度の指名手配を受ける。雑誌、週刊誌への執筆、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記―』(新潮社)、『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』(宝島社)、『北朝鮮ポップスの世界』(共著、花伝社)など。近著に『脱北者が明かす北朝鮮』(宝島社)。

※当記事は「デイリーNKジャパン」からの転載記事です。

dailynklogo150.jpg



今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

石破首相、あす午前11時に会見 予算の年度内成立「

ワールド

年度内に予算成立、折衷案で暫定案回避 石破首相「熟

ビジネス

ファーウェイ、24年純利益は28%減 売上高は5年

ビジネス

フジHD、中居氏巡る第三者委が報告書 「業務の延長
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:まだ世界が知らない 小さなSDGs
特集:まだ世界が知らない 小さなSDGs
2025年4月 1日号(3/25発売)

トランプの「逆風」をはね返す企業の努力が地球を救う

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者が警鐘【最新研究】
  • 3
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「最大の戦果」...巡航ミサイル96発を破壊
  • 4
    「炊き出し」現場ルポ 集まったのはホームレス、生…
  • 5
    メーガン妃のパスタ料理が賛否両論...「イタリアのお…
  • 6
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 7
    3500年前の粘土板の「くさび形文字」を解読...「意外…
  • 8
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大…
  • 9
    なぜ「猛毒の魚」を大量に...アメリカ先住民がトゲの…
  • 10
    突然の痛風、原因は「贅沢」とは無縁の生活だった...…
  • 1
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 2
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き詰った「時代遅れ企業」の行く末は?【アニメで解説】
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【独占】テスラ株急落で大口投資家が本誌に激白「取…
  • 5
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 6
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 7
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 8
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 9
    「テスラ離れ」止まらず...「放火」続発のなか、手放…
  • 10
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」…
  • 10
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中