最新記事

新型コロナウイルス

コロナ対策に成功した国と失敗した国を分けたもの──感染症専門家、國井修氏に聞く

2020年9月10日(木)18時50分
小暮聡子(本誌記者)

感染流行の震央となった欧州の中でも、死亡率を最小限に抑えたという意味では、ドイツも成功例として呼んでいいかもしれない。欧州では実は昨年12月の時点で新型コロナのウイルスが入り込んでいたとの証拠もあり、新型コロナの危険性に気付いたときには既に欧州各国で感染が広がっていたとも考えられている。

ドイツの感染者数も一時は世界のトップ10に入るほど多かったが、死亡率を見ると、イギリスやイタリアと比べると5分の1程度とかなり低値だ。

ドイツはまさに、感染が広がったとしても医療体制を強化し、適切な対策を行えば死者数の急増は避けられるという例を示した。ドイツはもともとヨーロッパの中でも医療従事者が多いのだが、人工呼吸器を増やしたり、検査体制を強化したりと迅速な対応を行って医療崩壊を防いだ。

自宅療養の患者も定期的にチェックして重症化に対応する、介護施設での検査や感染者隔離・加療を積極的に行うなど、きめ細かい対策を行った。

――今度は失敗例について聞きたい。死者数が少ないことが成功であるならば、医療崩壊を起こして死者を多く出した国が失敗例になるのか。

失敗例として1カ国だけ挙げるなら、ブラジルだ。いま感染者数は世界3位で、つい最近まで経済活動を妨げるとして厳格な措置をほとんどしておらず、新規感染者が1日4万人を超え、死者も1日1000人を超えていた。特にファベーラと言われる3密が揃ったスラム街でも感染が広がり、なかなか勢いが衰えない。対策を怠ればどうなるのかを世界にありありと示した。

他には医療崩壊が起きたイタリア、スペイン。アメリカもある意味では失敗例といえるだろう。拙著にも書いたが、国内初の感染者がほぼ同じ時期に報告された韓国に比べて、検査体制を整えるまでの初動が明らかに遅かった。また、アメリカの「連邦制」もトップダウンの徹底した対策を難しくさせた要因ともいえる。

トランプ大統領が当初はコロナは風邪のようなものだとして初動が遅れたこともあるが、アメリカは州政府に大幅な自治権を認めているため、州知事が早いうちから動いていたニューヨークと、楽観視していたテキサスやアリゾナなどでは対応が大きく異なった。

誰もが驚いたニューヨークの感染爆発も今は収束に向かっているが、それをみて準備や対策を行っていたはずのカリフォルニア、テキサス、フロリダで感染爆発が起こった。それもニューヨークを超えるほどの凄惨なものだ。連邦政府、州政府のリーダーシップ、中央と地方の連携、様々な教訓を与え、今もその闘いが続いている。

他の失敗例は、アフガニスタンやイエメンといった紛争国や脆弱国だ。新型コロナとの闘いに失敗と言う以前に、国自体が不安定で、保健システムが脆弱であるのに、テロ組織IS(自称イスラム国)などの反政府武装組織がコロナ禍のどさくさに紛れてテロや攻撃を仕掛けている。

その結果、アフガニスタンでは、カブールの住民を無作為抽出で検査したら3分の1が新型コロナ陽性であり、イエメンでは、新型コロナの患者の多くが救命が不可能な状態で救急搬送されている。

――イギリスは、成功例と失敗例のどちらに入るのか。

イギリスの評価はとても難しい。ロンドンという国際都市があり、ウイルスはどこからでも入ってこられた。気づかないうちに市中で感染が拡大していたようだ。さらに、ジョンソン英首相が当初、いわゆる集団免疫戦略ともとれる政策を打ち出した。首席科学顧問と主任医務官ら専門家の意見を反映したものと思われ、エビデンスで確証のない措置はしないというものだ。

彼の言い分には頷ける部分もあるが、結果的には初動が遅れた形になり、感染者数は35万人超、死者数は4万人超、特にこの死者数は悪夢の様相を示していたイタリア、スペインを超え、欧州トップ、世界のトップ5となった。公衆衛生を学ぶならイギリスと言われるほど、この国には公衆衛生、感染症分野で長い歴史、整備された公的制度、優れた人材・教育・研究施設があるだけに、世界中の人々がこの数字、状況に驚いている。

――イギリスの累計感染者数は世界で13位、1日に1000~3000人くらいの新規感染者が出ているが、死者数は1日当たり一桁や二桁でとどまっている。

死者数が毎日1000人を超えていた4月にくらべると、かなり少なくなった。新規感染者数が最近再び増えているが、死者数はあまり増えていない。その理由としていくつか考えられる。

ひとつはイギリスでは医療機関以外での検査が増え、重症でなく軽症、若年層の感染者の報告が増えていること、二つ目は以前死亡者が多かった高齢者施設などでの感染予防が徹底し、医療機関での院内感染なども改善したこと、などである。

<関連記事:西浦×國井 対談「日本のコロナ対策は過剰だったのか」
<関連記事:緊急公開:人類と感染症、闘いと共存の歴史(全文)

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

もう一段利上げしつつ、物価目標の実現前提とした対話

ビジネス

英インフレ期待、2月は低下=シティ・ユーガブ調査

ワールド

仏国民、極左政権をより警戒 極右への支持拡大=世論

ワールド

米国防総省、防衛関連企業にアンソロピック依存度の評
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本人が知らない AI金融の最前線
特集:日本人が知らない AI金融の最前線
2026年3月 3日号(2/25発売)

フィンテックの進化と普及で、金融はもっと高速に、もっとカジュアルに

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    村瀬心椛は「トップでなければおかしい」...スノボの謎判定に「怒りの鉄拳」、木俣椋真の1980には「ぼやき」も
  • 2
    最高裁はなぜ「今回は」止めた?...トランプ関税を違憲とした「単純な理由」
  • 3
    アルコールは血糖値を下げる...「脳と血管を守る」医師がすすめる意外な健康習慣
  • 4
    3頭のクマがスキー客を猛追...ゲレンデで撮影された…
  • 5
    【クイズ】サメによる襲撃事件が最も多い国はどこ?
  • 6
    2月末に西の空で起こる珍しい天体現象とは? 「チャ…
  • 7
    命は長し、働け女たち――88歳「働くばあさん」が説く…
  • 8
    住宅の4~5割が空き家になる地域も......今後30年で…
  • 9
    「IKEAも動いた...」ネグレクトされた子猿パンチと「…
  • 10
    米国の中国依存が低下、台湾からの輸入が上回る
  • 1
    「ヘル・コリア」から日本へ7万人 ── 大企業の高給より日本の「100%就職率」を選ぶ若者たち
  • 2
    アルコールは血糖値を下げる...「脳と血管を守る」医師がすすめる意外な健康習慣
  • 3
    命は長し、働け女たち――88歳「働くばあさん」が説く高齢期の「4つの覚悟」
  • 4
    「水道水」が筋トレの成果を左右する...私たちの体に…
  • 5
    「#ジェームズ・ボンドを忘れろ」――MI6初の女性長官…
  • 6
    カビが植物に感染するメカニズムに新発見、硬い表面…
  • 7
    海外(特に日本)移住したい中国人が増えている理由.…
  • 8
    100万人が死傷、街には戦場帰りの元囚人兵...出口な…
  • 9
    米国の中国依存が低下、台湾からの輸入が上回る
  • 10
    ロシアに蔓延する「戦争疲れ」がプーチンの立場を揺…
  • 1
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 2
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 3
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 4
    台湾侵攻「失敗」の大きすぎる代償
  • 5
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 6
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 7
    「ヘル・コリア」から日本へ7万人 ── 大企業の高給より…
  • 8
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トラン…
  • 9
    アルコールは血糖値を下げる...「脳と血管を守る」医…
  • 10
    命は長し、働け女たち――88歳「働くばあさん」が説く…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中