最新記事

新型コロナウイルス

コロナ対策に成功した国と失敗した国を分けたもの──感染症専門家、國井修氏に聞く

2020年9月10日(木)18時50分
小暮聡子(本誌記者)

kuniiinvu.JPG

ジュネーブ在住の國井修氏はこれまで110カ国以上で医療活動を行ってきた COURTESY OSAMU KUNII

3つ目の成功例は台湾だ。台湾の人口は2300万人以上だが、9月9日時点の累計感染者数は495人で、死亡は7人。中国から150キロしか離れておらず、年間200万人が渡航してくる国である。

一方、中国からはるか遠く離れたカリブ海に浮かぶドミニカ共和国は、人口は台湾の半分の1000万人のところ、感染者は10万人で、死者は1889人だ。台湾の感染者・死者数がいかに少ないかがわかる。

台湾では、医師が政治家になるケースが少なくない。現在の副総統はアメリカの公衆衛生大学院で博士号も取得した医師で、日本の内閣にあたる行政院の副院長や台湾の「疾病管理予防センター(CDC)」のトップも医師である。さらに天才プログラマーのオードリー・タンをデジタル担当大臣にするなど、政治と専門知識ががっちりとタッグを組んで、果敢に対策を打ち出していた。

さらにSARSの経験から、危機管理における縦の指揮命令系統の強化と、横の連携・協力の促進といった体制づくりをしていた。「中央感染症指揮センター」を設置して各省庁を指揮監督できる権限を持たせ、軍や事業者、民間団体との連携・協力できる仕組みを作り、また地方に管制センターを設けて、情報管理と物流管理を整備していた。

成功例としては他に、ニュージーランドも挙げられる。早期に厳格な措置を行い、世界で最も厳しいロックダウンを実施した。同国で1人目の感染者が報告される20日以上も前に、トランジットを含め中国からのフライトでの入国を禁止し、その後、入国禁止対象国を拡大した。

3月19日には累積感染者数は28人だったが、自国民や永住権保有者を除いて世界の全ての国からの入国を禁止し、実質的な「鎖国」を行った。3月25日にはスーパーなどを除くほぼ全ての企業の営業を中止し、公共の場で集まれる人数は2人に制限した。

アーダーン首相のこの措置は感染症の「抑制」ではなく「排除」ではないか、やり過ぎだとの批判もあったが、いまだに感染者は累計1788人、死者は24人と感染と死亡をよく抑えている。ただ、措置としてはニュージーランドよりも経済に対してオープンであったオーストラリアと比べると、6月下旬までの統計では人口100万人当たりの感染者数と死者数はほぼ同じだ。

一方で、あまりに厳しい措置のせいでニュージーランドのほうが経済的マイナスが大きく、2020年4月~6月のGDPは前年同期比でマイナス20%なのに対し、オーストラリアはマイナス13%と言われている。

ニュージーランドでは8月11日、新型コロナの市中感染が102日ぶりに確認され、最大都市オークランドでは再びロックダウンが施行された。今後、いつまで鎖国や封鎖を続けられるのか、それで社会・経済が持ちこたえられるのか、最終的にニュージーランドが成功国と呼ばれるかどうかは、今後の社会経済状況と感染症流行の有無にかかっていると私は思っている。

――何をもって「成功」とするかについて聞きたい。感染症対策の専門家が目標としているのは、感染者数を低く抑えることなのか、死者数を抑えることなのか、医療崩壊を防ぐことなのか、それとも、これら全てのバランスを取った上で経済も回していくことなのか。

感染症流行のどのようなフェーズか、対策で何を目標とし優先するかなどによって重視する指標が異なることがあるが、最も重要な指標をひとつ選ぶとすれば死者数または死亡率(人口当り死亡数)だ。検査数を増やせば報告される感染者数も増加する。社会経済活動を再開すれば、どこかでウイルスは伝播される。

リスクをゼロにすることは不可能で、多少感染者数が増えても、最終的に死者数を最小限に抑えられればよいと割り切って考えることも大切だ。

ただし、死者数を抑えるためには医療崩壊を避けなければならないので、指標として医療機関のICU病床や人工呼吸器の占有率も重要となる。例えば東京都のICU占有率が80%になると、あと20%しか重症患者を受け入れる余力がない、と警戒する必要がある。

感染者数=重症者ではないので、重症化しやすい高齢者が感染者の中にどれだけいるかも重要な指標だと思う。

日本ではどこの県で感染者の第一例が報告された、10人を超えた、芸能人のだれだれが感染した、などと大きく報道しているようだが、感染者の増減で一喜一憂し、感染者や感染させた人を犯罪者や特別な人のように見る風潮は慎むべきだと思う。感染した人もさせた人も悪くはない。誰もが感染する、させる可能性がある。

新型コロナに限らず、古今東西、感染症の流行に伴う差別・偏見・迫害が横行してきた。自分の身に危険が及ばないように、感染者を忌み嫌い、遠ざける。自分さえよければいい。これは人間の本性のようだ。

<関連記事:西浦×國井 対談「日本のコロナ対策は過剰だったのか」
<関連記事:緊急公開:人類と感染症、闘いと共存の歴史(全文)

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏 、 ホルムズ海峡に多くの国が軍艦派遣と

ビジネス

イラン情勢注視続く、FRB金利見通しも焦点=今週の

ワールド

イスラエル、レバノンと数日内に協議へ ヒズボラと戦

ワールド

北朝鮮の金総書記、多連装ロケット砲の発射訓練視察=
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:教養としてのミュージカル入門
特集:教養としてのミュージカル入門
2026年3月17日号(3/10発売)

社会と時代を鮮烈に描き出すミュージカル。意外にポリティカルなエンタメの「魔力」を学ぶ

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ズボンを穿き忘れてる! 米セレブ、下を穿かず「目のやり場に困る」衣装...「これはオシャレなの?」
  • 2
    米軍も防ぎきれないイランのドローン攻撃──イラン製をモデルにした米国製ドローンを投入
  • 3
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する「安価で栄養価の高い魚」の正体
  • 4
    有人機の「盾」となる使い捨て無人機...空の戦いに革…
  • 5
    「筋肉はモッツァレラと同じ」...なぜウォーミングア…
  • 6
    機内で「人生最悪」の経験をした女性客...後ろの客の…
  • 7
    イラン攻撃のさなか、トランプが行った「執務室の祈…
  • 8
    ファラオが眠る王家の谷に残されていた「インド系言…
  • 9
    世界の視線は中東から日本へ...企業主導で築くインド…
  • 10
    「映画賞の世界は、はっきり言って地獄だ」――ショー…
  • 1
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」を裏付けるような動画を公式に投稿してしまう
  • 2
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...撮影はパパ
  • 3
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」と言われる外国特派員の私が思うこと
  • 4
    米軍も防ぎきれないイランのドローン攻撃──イラン製…
  • 5
    「このままよりはマシだ」――なぜイランで米軍の攻撃…
  • 6
    職業別の収入に大変動......タクシー運転手・自動車…
  • 7
    キャサリン皇太子妃、英連邦デー式典に出席...公開さ…
  • 8
    ショーン・ペンは黙らない――「ウクライナへの裏切り…
  • 9
    世界の視線は中東から日本へ...企業主導で築くインド…
  • 10
    ズボンを穿き忘れてる! 米セレブ、下を穿かず「目の…
  • 1
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」を裏付けるような動画を公式に投稿してしまう
  • 2
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...撮影はパパ
  • 3
    台湾侵攻「失敗」の大きすぎる代償
  • 4
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからく…
  • 5
    アルコールは血糖値を下げる...「脳と血管を守る」医…
  • 6
    「ヘル・コリア」から日本へ7万人 ── 大企業の高給より…
  • 7
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」…
  • 8
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビ…
  • 9
    命は長し、働け女たち――88歳「働くばあさん」が説く…
  • 10
    「罠に嵌められた」と主張するが...欧州で次々と摘発…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中