最新記事

内乱

トランプ、黒人差別デモに発砲した白人少年は「正当防衛」

Trump on Accused Wisconsin Shooter: 'He Probably Would Have Been Killed'

2020年9月1日(火)17時45分
エリザベス・クリスプ

ウィスコンシン州ケノーシャで黒人差別反対デモを銃撃した白人少年。2人が死亡、1人が重症を負った(8月27日) Brendan Gutenschwager/REUTERS

<あの少年は「撃たなければ殺されていたかもしれない」と、トランプが自分の支持者をかばって人種差別を容認するうち、ポートランドではまた新たな死者が>

米大統領ドナルド・トランプは、8月25日にウィスコンシン州ケノーシャで行われていた抗議デモ中に発砲し、2人を殺害した罪に問われている17歳の少年について、正当防衛だったのではないかと示唆した。

「あれは興味深い状況だった。少年は逃げようとしていたが、転んでしまい、周囲にいた人間から激しい暴力をふるわれたように見える」。トランプは8月31日に行われたブリーフィングで、問題の少年カイル・リッテンハウスについて尋ねられた際に、記者団にそう述べた。「彼はとても大きなトラブルに巻き込まれた。殺されていたかもしれない」

トランプは、この事件は捜査中であると述べ、リッテンハウスを非難することは避けた。イリノイ州在住のリッテンハウスは、発砲後に逮捕され、第1級殺人で起訴されている。

事件現場の動画を見ると、リッテンハウスと思われる人物がロングライフルを手にして、道路を移動している。周囲にいるデモ参加者たちは、8月23日に警察官に背後から7回撃たれたジェイコブ・ブレイクの事件に端を発した抗議デモに参加していた。ブレイクは現在入院しており、銃撃で下半身麻痺の状態だ。

動画では、リッテンハウスらしき人物がカメラの前を走って横切り、つまずいて転んだように見える。それから複数の人に囲まれ、数発を発砲した。

撃たれて死亡したのは、ケノーシャ在住のジョーセフ・ローゼンバウム(36歳)と、同州シルバーレイク在住のアンソニー・フーバー(26歳)。同州ウェスト・アリス在住のゲイジ・グロースクロイツ(26歳)は重傷を負ったが、一命をとりとめた。

「少年のような人間がもっと必要だ」

リッテンハウスは現在イリノイ州で拘束されており、ウィスコンシン州への引き渡しを待っている。リッテンハウスの弁護士ジョン・ピアースは、事件の訴訟費用のために寄付を募っている。ピアースは公式声明で、リッテンハウスが発砲したのは正当防衛だったと述べている。

「彼があの場にいたのは、自分のコミュニティを守るため。怪我をしたデモ参加者の治療にあたるためだった」。ピアースは8月31日、ツイッターでそう述べた。「この国には、カイル・リッテンハウスのような人間がもっと必要だ」

トランプは9月1日にウィスコンシン州を訪れ、警察や、ケノーシャの抗議デモで影響を受けた商店主などに会う予定だ。ただし地元市長らは、トランプが来れば緊張が高まり、再び混乱が激化しかねないと訪問日の変更を求めている。

しかしトランプは、「私のためにこれほど良い仕事をしてくれた人たちに会いに行かなくてはならない。たくさんの人に会う予定だ。われわれは、ウィスコンシン州で絶大な支持を得ている」と述べている。「この国に対する愛と敬意が増すだろう」

トランプはブリーフィングで、オレゴン州ポートランドで支持者たちがとった行動についても、非難しなかった。ポートランドでは8月29日、抗議デモが行われている路上を、トランプ支持者らが数百台の車を連ねてダウンタウンを走りながら、デモ参加者に向けてペイントボール銃を撃ったり、催涙スプレーを噴射したりした。夜には、差別反対デモとトランプ支持者が衝突し、男性が一人撃たれて死んだ。

「ペイントボールは銃弾ではない」とトランプは述べ、自分の支持者たちは「平和的」に抗議していたと主張した。

自分の支持者たちはポートランドやシカゴ、ニューヨークで起きている社会不安をテレビで見て不満を抱いているとトランプは述べた。「テレビであんな混乱を目にしたら、『これは自分たちの国ではない』と考えるだろう」

(翻訳:ガリレオ)

<参考記事>トランプが「法と秩序」でバイデンを追い上げ、差は誤差の範囲に
<参考記事>トランプ、シャーロッツビルの衝突「双方に責任」 新たな反発招く

銀河系には36のエイリアン文明が存在する?
カナダで「童貞テロ」を初訴追──過激化した非モテ男の「インセル」思想とは
昆虫食はすでに日常 カナダの大手スーパー「コオロギ粉」全国販売開始
セックスドールに中国男性は夢中

20200908issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2020年9月8日号(9月1日発売)は「イアン・ブレマーが説く アフターコロナの世界」特集。主導国なき「Gゼロ」の世界を予見した国際政治学者が読み解く、米中・経済・テクノロジー・日本の行方。PLUS 安倍晋三の遺産――世界は長期政権をこう評価する。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

イスラエル軍、ラファ地上作戦控え空爆強化

ビジネス

英消費者信頼感、4月は2年ぶり高水準回復 家計の楽

ワールド

中国、有人宇宙船打ち上げ 飛行士3人が半年滞在へ

ビジネス

米サステナブルファンド、1─3月は過去最大の資金流
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された米女優、「過激衣装」写真での切り返しに称賛集まる

  • 3

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」──米国防総省

  • 4

    今だからこそ観るべき? インバウンドで増えるK-POP…

  • 5

    未婚中高年男性の死亡率は、既婚男性の2.8倍も高い

  • 6

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 7

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    「鳥山明ワールド」は永遠に...世界を魅了した漫画家…

  • 10

    心を穏やかに保つ禅の教え 「世界が尊敬する日本人100…

  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 10

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 4

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこ…

  • 7

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 8

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 9

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 10

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中