最新記事

株式市場

景気はどん底なのにアメリカ株はなぜ上がる?

Why Are U.S. Stock Markets Booming When Everything Is So Bleak?

2020年8月6日(木)16時30分
ルーシー・ハーレー・マッケオン

常人にはお先真っ暗に見えるアメリカ経済だが ronniechua-iStock.

<GDPは3割減、失業率は11%で、コロナ患者数は世界最大で経済再開もままならないのに、投資家は何を考えているのか>

3月末、投資家たちが新型コロナウイルス感染拡大が経済に与える影響の大きさを察するや、株価はきりもみ状態に陥り、暴落した。

現在、ダウ工業株30種平均は、1月の水準から6%近く下落しているものの、おおむね1年前と同じ水準で取引されている。

S&P 500社株価指数も、前年8月より高値で取引され、年初から2.3%上昇した。

ナスダック指数に至っては、新型コロナウイルスによる暴落前の高値を12.2%上回っている。

3月の暴落以降、投資家たちの市場に対する信頼感はなぜ回復したように見えるのか。経済のあらゆる領域で、警戒警報が鳴り響いているというのに?

コロナウイルスの再拡大により、ロックダウンに逆戻りしたり、経済活動の制限緩和を一部延期する事態が生じている。カリフォルニア、テキサス、フロリダといった経済的に重要な州では、感染拡大も著しく、現在も部分的に活動が停止している。

アメリカの第2四半期のGDPは前期比で32.9%減少し、過去最悪の下げを記録した。失業率は6月、11.1%に達した。

「株式市場は、新たな情報への適応が非常に得意だ」と、ロンドンを本拠とするIG証券の首席市場アナリスト、クリス・ビューシャンは言う。

「3月に投げ売りが起こったのは、新型コロナウイルスの広範な影響を誰も予想していなかったからだ。予想もしなかった危機は人々をパニックに追いやる」

「一方今は、投資家は経済データを無視している。そして大胆なほど楽観的になっている」

「人々はおそらく、景気がそれなりに回復するなら株価には十分買いの余地があると考えているのだろう」

早期のワクチン開発に期待

投資家が楽観的になのには他の理由もある。第5弾となるコロナウイルス関連支援策が連邦議会で議論されているのだ。

米議会が夏季の休会期間に入り、議員がワシントンDCを離れるまであと数日しかなく、民主党と共和党の議員はそれまでに合意に到達しなければならない。

法案の一部分についてはどうにか合意したが、新型コロナウイルス感染訴訟から米企業を守るコロナ免責や学校に対する財政支援、失業給付の拡大に関しては、両党の意見はいまだに割れている。

一方で、治療法やワクチンができる可能性も見えてきている。治療薬やワクチンの開発が成功すれば、景気回復が加速し、予想より早く平常に戻れるようになるだろう。

オックスフォード大学とアストラゼネカは7月20日、開発中のワクチンについて、人を対象とした第1段階の治験の結果、「安全で、免疫反応を誘発した」と発表した。

現在、あちこちでさらに大規模な治験が進められているが、ワクチンで新型コロナウイルスが完全に予防できるか定かではなく、また感染第2波の脅威も迫っている。

「第2四半期のデータを見るかぎり、景気はまた悪くなるかもしれない。だが、おそらくそれほど悪くはならないだろう」とIG証券のビューシャンは述べる。「大きな感染の波が来したとしても、市場は前回と同じようには反応しないと思う」

(翻訳:ガリレオ)

<参考記事>経済再開が早過ぎた?パーティーに湧くアメリカ
<参考記事>コロナ感染大国アメリカでマスクなしの密着パーティー、警察も手出しできず

【話題の記事】
中国からの「謎の種」、播いたら生えてきたのは......?
地下5キロメートルで「巨大な生物圏」が発見される
科学者数百人「新型コロナは空気感染も」 WHOに対策求める
中国のスーパースプレッダー、エレベーターに一度乗っただけで71人が2次感染

2020081118issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
楽天ブックスに飛びます

2020年8月11日/18日号(8月4日発売)は「人生を変えた55冊」特集。「自粛」の夏休みは読書のチャンス。SFから古典、ビジネス書まで、11人が価値観を揺さぶられた5冊を紹介する。加藤シゲアキ/劉慈欣/ROLAND/エディー・ジョーンズ/壇蜜/ウスビ・サコ/中満泉ほか

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

豊田織機の非公開化報道、トヨタ「一部出資含め様々な

ビジネス

中国への融資終了に具体的措置を、米財務長官がアジア

ビジネス

ベッセント長官、日韓との生産的な貿易協議を歓迎 米

ワールド

アングル:バングラ繊維産業、国内リサイクル能力向上
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは? いずれ中国共産党を脅かす可能性も
  • 3
    トランプ政権の悪評が直撃、各国がアメリカへの渡航勧告を強化
  • 4
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 5
    アメリカ鉄鋼産業の復活へ...鍵はトランプ関税ではな…
  • 6
    関税ショックのベトナムすらアメリカ寄りに...南シナ…
  • 7
    ロシア武器庫が爆発、巨大な火の玉が吹き上がる...ロ…
  • 8
    ロケット弾直撃で次々に爆発、ロシア軍ヘリ4機が「破…
  • 9
    ビザ取消1300人超──アメリカで留学生の「粛清」進む
  • 10
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 3
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 4
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 5
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず…
  • 8
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 9
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 10
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中