最新記事

南極

地球上で最も天体観測に適した場所が特定される──しかし、気温も......

2020年8月5日(水)16時10分
松岡由希子

天体観測に適しているが、地球上で最も低温だとみられている...... Credit: Zhaohui Shang

<カナダ・ブリテッシュコロンビア大学などの研究チームは、東南極で最も高い標高4093メートルの地点がもっとも大気のゆらぎが少なく、天体観測に適していると明らかにした......>

地球上で最も天体観測に適した場所はどこだろうか......。

東南極・南極高原のなだらかな氷床の円頂丘の頂上部「ドームA(ドームアーガス)」は、海岸から約1200キロメートル離れ、東南極で最も高い標高4093メートルの地点にある。また、このエリアは、気温マイナス90度にまで下がることがあり、地球上で最も低温だとみられている。

このほど、標高の高さや気温の低さ、暗闇が続く時間の長さ、非常に安定した大気というドームA特有の要因により、ドームAが世界で最も天体観測に適した場所であることが明らかとなった。

地上での天体観測では、大気のゆらぎによって天体からの光が屈折し、星像が揺れたり、ぼけたり、広がったりする。星がキラキラと輝くのは、大気のゆらぎによるものだ。

Map-showing-the-location-of-Dome-A-or-Dome-Argus-in-Antarctica-Dome-B-Dome-C-Dome.png

小型望遠鏡システムをドームAに設置して測定した

このような現象の程度を表わす尺度は「シーイング」と呼ばれる。平均標高約5000メートルのチリのアタカマ砂漠に設置されている「アルマ望遠鏡」など、中緯度地域で最高級の天文台のシーイングは、概ね0.6〜0.8秒角だ。

南極では大気のゆらぎが弱いためシーイングがより向上するのではないかと考えられており、東南極にある標高3240メートルの氷床の円頂丘「ドームC(ドームチャーリー)」のシーイングは0.23〜0.36秒角と推定されている。

カナダ・ブリテッシュコロンビア大学(UBC)、中国科学院国家天文台、豪ニューサウスウェールズ大学(UNSW)の共同研究チームは、「ドームAの上空の大気境界層(地表面との摩擦に影響を受ける地球の大気で最も低い部分)はドームCよりも薄い」との推定のもと、中国の研究チームが開発した小型望遠鏡システムをドームAに設置。8メートルの高さから夜間のシーイングを測定した。

7-astronomersp.jpg

中国の研究チームが開発した小型望遠鏡システムをドームAに設置した Credit: Zhaohui Shang


星のまたたきが大幅に減り、はっきりと明るく観測できる

2020年7月29日に学術雑誌「ネイチャー」で発表した研究成果によると、そのシーイングは最低値で0.13秒角であった。この値はドームCで20メートルの高さから測定した値に匹敵し、中緯度地域で最高級とされる天文台よりもずっと低い。つまり、ドームAでは、星のまたたきが大幅に減り、星像がよりはっきりと明るく観測できるという。

研究論文の共同著者でニューサウスウェールズ大学の天文学者マイケル・アシュリー教授は、「間接的な証拠や論理的推論から、ドームAが天体観測に適した環境であると考えられてきたが、この研究成果によって、ようやく、直接かつ客観的な証拠を示すことができた」と述べている。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

ロイターネクスト:米第1四半期GDPは上方修正の可

ワールド

バイデン氏、半導体大手マイクロンへの補助金発表 最

ビジネス

米国株式市場=下落、予想下回るGDPが圧迫

ワールド

中国の対ロ支援、西側諸国との関係閉ざす=NATO事
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」──米国防総省

  • 3

    今だからこそ観るべき? インバウンドで増えるK-POP非アイドル系の来日公演

  • 4

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 5

    未婚中高年男性の死亡率は、既婚男性の2.8倍も高い

  • 6

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 7

    心を穏やかに保つ禅の教え 「世界が尊敬する日本人100…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    やっと本気を出した米英から追加支援でウクライナに…

  • 10

    「鳥山明ワールド」は永遠に...世界を魅了した漫画家…

  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 10

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 4

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこ…

  • 7

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 8

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 9

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 10

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中