新型コロナ、ワクチン開発の苦境──ワクチン実用化に時間がかかる理由は何か?
実用化には、臨床試験で有効性と安全性を確認できなければならない sesame-iStock
<世界中の医薬品メーカーや研究機関の研究者がワクチン開発に取り組んでいるが、安全性とスピードの両立は容易ではない。臨床試験の3つのフェーズと、実用化へのハードルとは>
*この記事は、ニッセイ基礎研究所レポート(2020年5月1日付)からの転載です。
パンデミックとなった新型コロナウイルス感染症は、欧米を中心に、拡大が続いている。世界各国で、国境封鎖や感染地域からの入国制限、都市封鎖(ロックダウン)などの措置がとられているが、まだ収束の見通しは立っていない。
日本でも、都市部を中心に感染者の数が増加している。患者の集中によって医療施設が機能不全となる、医療崩壊の危機がさし迫っている。これを受けて、政府は5月6日までとしていた緊急事態宣言を、1ヵ月程度延長する方針を固めたと報じられている。外出自粛要請や休業要請など、市民の生活や社会、経済へ与える影響は増大している。
世界では、死亡者数でアメリカが5万人を超え、イタリア、イギリス、スペイン、フランスが2万人に達した。感染者数では、アメリカが100万人、スペイン、イタリアが20万人を上回っている。
世界全体で感染者は309万445人、死亡者は21万7769人。日本の感染者は1万4800人、死亡者は428人(横浜港に停留したクルーズ船を含む)に達している(4月30日現在/世界保健機関(WHO)調べ)。
この感染拡大を止めるには、ワクチンが欠かせないとされる。現在、世界中の医薬品メーカーや研究機関で、多くの研究者がワクチン開発に取り組んでいる。しかし、実用化までには、まだ時間がかかる見通しだ。その理由はどこにあるのか、みていこう。
3つのフェーズで行われるワクチン臨床試験
一般に、どんな医薬品でも、有効性と安全性を兼ね備えることが条件となる。特に、ワクチンには、高い安全性が求められる。
感染症に対するワクチンは、健康な人に向けて、予防の目的で投与される。このため、もしワクチンを投与したことで、健康な人が病気になってしまうようなら、大問題となりかねない。
医薬品開発では、原則として、臨床試験を通じて有効性と安全性が確認される。臨床試験は、法令に定める基準やガイドラインに従って行われる。そのガイドラインによれば、事前に大学などの審査委員会の審査・承認を受けること、被験者のインフォームドコンセント(十分な説明に基づく同意)を得ること──などとされている。
ワクチンの臨床試験は、3つのフェーズで行われることが一般的だ。
フェーズⅠは、通常、少人数の健康な成人を対象に、小規模な試験として行われる。ワクチンの有効性と安全性に関する、予備的な探索を行うことが目的となる。