コロナ騒動は「中国の特色ある社会主義」の弱点を次々にさらけ出した
習近平主席の武漢入りは、習政権が「ウイルスとの戦争」に勝利しつつあることを内外に誇示する狙いがあった。
国内的には、「復工復産」(工業と産業の復興)をスローガンに、再びアクセルを踏み始めた。一月から二月の工業生産は前年同期比で一三・五パーセントも落ち込んでおり、早急に立て直す必要があった
また対外的には、パンデミック(世界的流行)に際して、中国がいち早く克服した「戦勝国」として、対処法を世界に伝授し、援助物資を供給していくリーダーになるという意思を示したのだった。
こうして、何事にも強気、強気の習近平政権は、「反敗為勝(ファンバイウェイシェン)」(敗北を勝利に変える)で、内外に中央突破を図っていった。四月八日には、武漢の封鎖を七六日ぶりに解除。「自由・民主の欧米社会」よりも「中国の特色ある社会主義」の方が危機に強いことを誇示した。
習近平主席には、誰にも負けない「二つの長所」がある。一つは我慢強さだ。忍従に忍従を重ねてトップの座を掴んだように、今回のコロナウイルス騒動でも、忍従して政治的及び経済的に捲土重来を図ろうとするだろう。
もう一つは強運である。中国では俗に、「小事は智によって成し、大事は徳によって成し、最大事は運によって成す」と言う。習主席の半生を振り返ると、恐るべき強運の持ち主であることが分かる。
習近平主席は、忍従と強運をもって、この最大のピンチを脱することができるのか。そしてアメリカと肩を並べ、いつの日か凌駕することができるのか。六六歳の皇帝様に問われているのは、コロナウイルスの終息と同時に、「二一世紀の人類にふさわしい政治システム」という壮大な命題に対する解でもある。
※転載前編:中国経済は悪化していたのに「皇帝」が剛腕を発揮できた3つの理由
近藤大介(Daisuke Kondo)
1965年生まれ。東京大学教育学部卒業、国際情報学修士。講談社(北京)文化有限公司副社長を経て、『週刊現代』特別編集委員、現代ビジネス連載コラムニスト。専門は中国、朝鮮半島を中心とする東アジア取材。2008年より明治大学講師(東アジア論)も兼任している。新著に『アジア燃ゆ』(MdN新書)、『中国人は日本の何に魅かれているのか』(秀和システム)、『ファーウェイと米中5G戦争』(講談社+α新書)がある。
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