インドネシアのコロナ感染死者数、公式統計に疑問 実際は政府発表の約5倍という報道に衝撃
保健省は対策本部の数字認めず
「テンポ」誌によると、保健省は「対策本部」が死者数で大きく異なる独自の統計数字のデータをもっていることをこれまで公には一切認めたことがない、としている。
同誌は、7月3日現在の保健省発表の感染者60695人、死者3036人であるが、これに対して「対策本部」は同日の数字として感染者62050人と保健省公表より約1300人多い数字となっていると指摘。
そして死者数に関しては13885人として保健省のデータの約4.5倍、数では1万人以上多い数字となっているのだ。
この感染死者数は中国、日本、韓国をも抜いて東アジア、東南アジアで群を抜いた最悪の数字となる。
その衝撃は大きく、ニュースを知ったインドネシア人からは保健省、政府に対する政治不信が広がろうとしている。
保健相、大統領は直ちに姿勢を改めよ
「テンポ」は同記事の中で最後に、保健省担当者やテラワン・アグス・プトラント保健相へ「数字の危険な作為を直ちにやめて、国際的なグローバル・スタンダートに基づく正確な統計データに修正する必要がある」と主張。ジョコ・ウィドド大統領に対しても「テラワン保健相に数字のもてあそびを中止するように今すぐ指導するのがその務めである」と指摘し、指導力発揮への期待を表明している。
保健省の発表する感染に関する統計データは過小評価されている、あるいは数字が操作されているとの疑いは以前から指摘されていたが、今回の「テンポ」の報道はそうした指摘が正しかったことを確認したといえる。
統計データは地方自治体が講じている各種の感染拡大防止策の基準になるもので、今回の報道でこうした政策判断の基礎になる数字の「まやかし」が暴露されたことを受けて、今後感染防止対策の見直しが迫られることは必須とみられている。
保健省が対策本部の「国際基準のデータ」の存在を知らないはずはないことから、「いつまで政府や地方政府に都合のいい実数を下回る統計データを発表し続けて国民に真実を知らせないのか」という不満の声に今後どう対応するのか注目される。
インドネシアは7月9日現在、感染者数は70736人と7万人を超え、感染死者数は3417人。だが、これはWHOの基準とは異なるインドネシア保健省の独自基準で計測された数字に過ぎない。
[執筆者]
大塚智彦(ジャーナリスト)
PanAsiaNews所属 1957年東京生まれ。国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞社入社、長野支局、東京外信部防衛庁担当などを経てジャカルタ支局長。2000年産経新聞社入社、シンガポール支局長、社会部防衛省担当などを歴任。2014年からPan Asia News所属のフリーランス記者として東南アジアをフィールドに取材活動を続ける。著書に「アジアの中の自衛隊」(東洋経済新報社)、「民主国家への道、ジャカルタ報道2000日」(小学館)など
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