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イラン革命防衛隊のミサイル開発に新事実 アルミ粉末計画の内幕

2020年6月26日(金)12時48分

設備の調達

ロイターが検証した複数の書簡によると、IACは設備を調達するため中国企業とも交渉した。文書で確認された企業は、政府の支援を受けている中国有色金属建設(NFC)だ。

ガセミ氏は11年10月、革命防衛隊のミサイル開発計画トップへの書簡で、「閣下の指示に従い、中国企業NFCを経由し、(ドイツ企業と日本企業それぞれ1社から)必要な機械・設備の一部を提供する件に関して、リー・シャオフェン氏と合意に至った」と記している。この書簡の表題には、「アルミニウム粉末の微粒子化について」とある。

さらに2カ月後にガセミ氏からリー・シャオフェン氏に送られた書簡では、リー氏の肩書きはNFC副社長兼最高法務責任者となっていた。

IACが最終的に設備を最終的にどこから購入したのか、文書からは分からない。ロイターはこの書簡で言及されているドイツと日本に企業を特定することができなかった。リー氏への連絡はついていない。

中国外務省にNFCとIACについて質問したところ、「把握していない」との回答があった。中国外務省は、「(我が国は)国連安保理による決定を含め、核不拡散に関する国際的な義務」を厳格に順守しているとした。

NFCはロイターに対し、「用途が何であれ、アルミニウム粉末の生産に関連したいかなる技術、設備またはサービスについても、輸出したことはなく、またその入手を支援したこともない」と返答。事業内容は「民生分野」に限定している、とした。

しかし、NFCのホームページを確認したところ、同社の市場の1つとしてイランが明記されていた。05年の報道発表資料では、ジャジャームのアルミナ生産施設が「NFCによる技術改善プロジェクト」として挙げられている。アルミニウム粉末生産に関連した設備、技術、サービスをIACに提供したかどうかをNFCに問い合わせたが、回答を得られなかった。

「制裁を生き延びる」

フランスに逃れた元イラン当局者のモガダム氏は、15年にジャジャーム近郊の施設を2回訪れた。テヘランでも、イラン政府当局者とIAC幹部らとの会合に複数回出席したという。

「(IACは)軍事プロジェクトが制裁下を生き延びるためには政府による支援が必要だと言い、外貨へのアクセスを求めていた」と、モガダム氏は言う。ロイターは行政担当副大統領のオフィスにコメントを求めたが、回答は得られなかった。

15年のイラン核合意を受け、弾道ミサイルをめぐる国連安保理の過去の条項は解除され、新たな決議が有効となった。決議第2231号は、イラン政府に対し、核弾頭の搭載を意図した弾道ミサイルに関する活動を控えるよう「要求して」いる。

イランと一部の同盟国は、この文言で順守義務は生じないと主張している。

国連の報道官は、アルミニウム粉末は核弾頭搭載を意図しないミサイルやロケットの推進剤としても使えるため、その生産が同決議の対象になるどうか確定していないとしている。また、軍事目的のアルミニウム粉末の生産が制裁決議第1929号の対象になるかどうかを判断する立場にもないという。


Bozorgmehr Sharafedin Pratima Desai(翻訳:エァクレーレン、取材協力:Min Zhang、Tom Daly、Arshad、Michelle Nichols、新田裕貴)

[ロイター]


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