最新記事
中国ビッグデータ立国目指す中国、民法整備で個人情報保護に一歩
中国は個人のプライバシーと情報に対する権利を初めて法制で整備する。14億もの国民の情報がデジタル化され、情報漏えいに対する脆弱性が問題となるなか、個人情報の保護に向け象徴的な一歩を踏み出す。写真は北京で22日撮影(2020年 ロイター/Tingshu Wang)
中国は個人のプライバシーと情報に対する権利を初めて法制で整備する。14億もの国民の情報がデジタル化され、情報漏えいに対する脆弱性が問題となるなか、個人情報の保護に向け象徴的な一歩を踏み出す。
22日から開幕した全国人民代表大会(全人代、国会に相当)の審議には、中国初の民法典が盛り込まれた。
草案では個人のプライバシーと個人情報が保護される権利がうたわれている。データ収集者は個人情報を守る義務があり、同意なく取得・開示・処理することはできないとしている。
中国での個人情報保護に向けた動きは、急速に成長するインターネットセクターを保護し法的正当性を与えるほか、国内の重要情報の海外移転を防ぐためとみられている。
法制化にあたっては、こうした権利の保護を定めた詳細な規制が伴う必要がある。また政府による監視から個人を守る術はない。
それでも専門家は、デジタルプライバシー権の認識は個人を守るための重要な一歩だと語る。
北京の対外経済貿易大学のXu Ke教授は「個人情報の定義が法に定められていない場合、多くの紛争は解決困難だ。訴える手段がないからだ」と述べた。
また香港城市大学のChen Lei法学教授は、EU(欧州連合)の一般データ保護規則ほど強力なものではないにせよ、法が整備されれば中国は個人のデータプライバシーの法的枠組み構築する少数派の国々の仲間入りをすることになる、と評価した。
専門家によると、中国の現行法下では違反した企業への罰則規定が不十分であるため、適切に個人が保護されているとは言えない。またプライバシーに関する訴訟について中国の裁判所が下す判決には、これまで一貫性がみられなかった。これは不十分な規制や硬直した司法制度下で裁判官が新たな法解釈を行うことに限界が生じているためという。
象徴的な例として、2017年に米アマゾン・ドット・コム を相手取り、42人が起こした集団訴訟が挙げられる。原告の1人は、購入番号や商品情報を持つ人物からの電話で返金を告げられてフィッシング(なりすまし)詐欺サイトに誘導され、24万7000元(3万4627米ドル)をだまし取られた、と訴えた。
しかし中国の裁判所が下した判決は2度とも、民事裁判より先に刑事裁判が起こされなければならないというものだった。
原告側弁護士は「この判決は、企業が個人情報の保護やデジタルセーフティーに何ら配慮を行っていないことを示している」と批判した。
全人代は、特に個人情報の保護に主眼を置いた法律を別途、年内に整備する方針。専門家は、実効性を持たせるためには違反や情報漏えいに対してより厳しい罰則規定を設ける必要があると指摘する。
アマゾン訴訟の原告側弁護士は「(民法典は)民事訴訟を行う上でも、被害者保護の点からも役に立つ。裁判所にとって、より明確な基準になる」と評価した。
2020年6月2日号(5月25日発売)は「コロナ不況に勝つ 最新ミクロ経済学」特集。行動経済学、オークション、ゲーム理論、ダイナミック・プライシング......生活と資産を守る経済学。不況、品不足、雇用不安はこう乗り切れ。