16歳の妹を兄弟が「名誉殺人」 婚前交渉は家族の恥というインドネシア
少女婚の闇に潜む「男尊女卑」
国民の多数を占めるイスラム教では婚姻外の性行為は原則として認めていない。このため婚前交渉も不倫行為も宗教裁判所で処罰される可能性があるが、そうした「イスラム法」の適用が認められているスマトラ島最北部のアチェ州以外ではあくまで建て前だけとなっているのが実態であり、貧困や生活苦から売春で身を立てざるを得ないイスラム教徒の少女や主婦も多く存在する。
事実、このところの新型コロナウイルスの感染拡大防止措置で社会活動が大幅に制限され、生活苦からネットを通じて客を探して売春をしていたアチェ州の女性7人が警察に摘発される事件も報じられている。
インドネシアの婚姻法では婚姻適齢を21歳としているが、両親の承諾や宗教裁判所の認可があれば男子は19歳から、女子は16歳から結婚が可能である。さらに地方では依然として少女婚の習慣が残っており、ユニセフの統計ではインドネシアでは14%の少女が18歳未満で、1%の少女は15歳未満で結婚しているという。
こうした実態から今回のロスミニさんも16歳で縁談話しがもち込まれたものの、最終的に婚姻が成立せず、性行為だけが行われたことが「名誉殺人」の原因となったとみられている。
しかし女性の人権保護団体などでは「責められるべきは16歳の少女ではなく、性行為を行った45歳の男性である」として兄弟2人の計画殺人での逮捕は当然としたうえで、45歳のいとこも「未成年との性行為」で取り調べる必要があると主張している。
とはいえイスラム教、そして地方の風習では依然として「男尊女卑」が暗黙の規範として社会を律しているという避けがたい現実があり、インドネシアの女性特に少女にとっては厳しい現実社会となっている。
[執筆者]
大塚智彦(ジャーナリスト)
PanAsiaNews所属 1957年東京生まれ。国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞社入社、長野支局、東京外信部防衛庁担当などを経てジャカルタ支局長。2000年産経新聞社入社、シンガポール支局長、社会部防衛省担当などを歴任。2014年からPan Asia News所属のフリーランス記者として東南アジアをフィールドに取材活動を続ける。著書に「アジアの中の自衛隊」(東洋経済新報社)、「民主国家への道、ジャカルタ報道2000日」(小学館)など
2020年5月19日号(5月12日発売)は「リモートワークの理想と現実」特集。快適性・安全性・効率性を高める方法は? 新型コロナで実現した「理想の働き方」はこのまま一気に普及するのか? 在宅勤務「先進国」アメリカからの最新報告。