最新記事

環境負荷

「電気自動車は本当に環境にやさしいのか」との懐疑論があったが......

2020年4月9日(木)17時10分
松岡由希子

「電気自動車が温室効果ガスを増加させている」という説を払拭した...... 3alexd-iStock

<自動車の製造から解体までのライフサイクル全体で環境負荷を定量的に評価し、「電気自動車が温室効果ガスを増加させている」という説を払拭する研究が発表された>

電気自動車(EV)は、走行中、二酸化炭素や窒素酸化物などを一切排出しないため、一般的なガソリン車と比べて環境負荷が低いとされている。しかし、これまでには、電気自動車の製造工程やエネルギー源となる電気の発生プロセスで排出される二酸化炭素量をふまえ、「電気自動車は本当に環境にやさしいのか」との懐疑的な議論もたびたび起こっている。

自動車の製造から解体までのライフサイクル全体で環境負荷を定量的に評価

蘭ラドバウド大学らの研究チームは、2020年3月23日、学術雑誌「ネイチャー・サステナビリティ」において「世界の95%で、電気自動車は、ガソリン車よりも環境負荷が低い」との研究論文を発表した。

研究チームでは、欧州、米国、中国など、世界59の国と地域で、様々な車種を対象に、自動車の製造から使用、解体までのライフサイクル全体で環境負荷を定量的に評価する「ライフサイクルアセスメント」を実施し、電気自動車とガソリン車の温室効果ガスの排出量を比較した。

その結果、世界全体の道路交通の95%を網羅する53カ国で電気自動車のほうがガソリン車よりも温室効果ガスの排出量が少ないことがわかった。

スウェーデンやフランスなど、再生可能エネルギーや原子力発電で多くの電力をまかなっている国では、電気自動車のライフサイクル全体での平均排出量がガソリン車よりも70%少なく、英国でも30%程度低かった。一方、その例外として、ポーランドのような石炭火力発電に依存する国があげられている。

「電気自動車が温室効果ガスを増加させている」という説を払拭するもの

今後、世界各国で再生可能エネルギーへの転換がすすめば、電気自動車の環境負荷はさらに低下すると考えられる。研究チームでは、2050年までに、公道で走行する2台に1台は電気自動車になるだろうと予測。これによって、世界全体で、ロシアの年間二酸化炭素排出量に相当する1.5ギガトンの二酸化炭素排出量を削減できるという。

研究論文の筆頭著者であるラドバウド大学のフロリアン・クノブロッフ研究員は、一連の研究結果について「『電気自動車が温室効果ガスを増加させている』という説を払拭するものだ」と評価。共同著者である英ケンブリッジ大学のパブロ・サラス博士も「低炭素社会に向けたイノベーションへの理解は、有効な政策立案において不可欠だ」と指摘し、「この研究成果が英国内外の政策プロセスに活かされることを期待している」と述べている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

豊田織機の非公開化報道、トヨタ「一部出資含め様々な

ビジネス

中国への融資終了に具体的措置を、米財務長官がアジア

ビジネス

ベッセント長官、日韓との生産的な貿易協議を歓迎 米

ワールド

アングル:バングラ繊維産業、国内リサイクル能力向上
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは? いずれ中国共産党を脅かす可能性も
  • 3
    トランプ政権の悪評が直撃、各国がアメリカへの渡航勧告を強化
  • 4
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 5
    アメリカ鉄鋼産業の復活へ...鍵はトランプ関税ではな…
  • 6
    関税ショックのベトナムすらアメリカ寄りに...南シナ…
  • 7
    ロケット弾直撃で次々に爆発、ロシア軍ヘリ4機が「破…
  • 8
    ロシア武器庫が爆発、巨大な火の玉が吹き上がる...ロ…
  • 9
    ビザ取消1300人超──アメリカで留学生の「粛清」進む
  • 10
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 3
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 4
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 5
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず…
  • 8
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 9
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 10
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中