最新記事

新型コロナウイルス

トランプ、ドイツ社のワクチン独占を画策?

Trump Wanted German Coronavirus Vaccine 'Only for' the U.S.

2020年3月16日(月)16時15分
ジェーソン・レモン

新型コロナウイルスの感染拡大で国家非常事態を宣言したトランプ(3月13日) Jonathan Ernst-REUTERS

<来るべきワクチン争奪戦の先駆けか>

新型コロナウイルス(COVID-19)のワクチン開発に取り組むドイツ企業に対し、ドナルド・トランプ大統領が「アメリカだけのために」ワクチンを製造させようとした、と報じられた。

ロイターは3月15日、ドイツ政府筋の情報として、ドイツのバイオ医薬品開発企業「キュアヴァク(CureVac)」が開発している新型コロナウイルスのワクチンの権利をトランプ政権が確保しようとしていると報じた。独ウェルト紙日曜版の報道で、ドイツ政府筋は「トランプはキュアヴァクの成果を独占しようとしている。彼はアメリカのためにワクチンを確保するためなら何でもする。だがアメリカのためだけだ」と語ったという。

ホワイトハウスの情報筋は本誌に、トランプ政権はこの報道およびその根拠となる情報を認識していないと語った。本誌は米国務省にもコメントを求めている。

キュアヴァクは3月15日に「現在、噂されている買収の話を否定する」と文書で断言した。

だが、ドイツ経済省の報道官はキュアヴァクを支配しようとするアメリカの動きを阻止することができる、と語った。ロイターの記事によれば、同報道官はドイツ政府の外国貿易法に基づいて、「国家または欧州の安全保障上の利益が危機に瀕している場合」、外国からの株式公開買い付けを精査できることを指摘した。

ドイツ保健省の報道官もロイターに、ウェルト紙の報道は「確認」できると語った。

アメリカから「身を守れ」

キュアヴァクにとって最大の資金提供者である投資会社ディートマー・ホップ・バイオテック・ホールディングのクリストフ・ヘティヒ最高経営責任者(CEO)によれば、同社はアメリカとの独占的な取引を検討していない。ドイツの放送局ドイチェ・ウェレ(DW)は、ヘティヒが「私たちは、特定の国ではなく全世界向けのワクチンを開発したいと考えている」と語ったことを報じた。

DWによれば、キュアヴァクのCEOを務めていたダニエル・メニケラは3月初め、ホワイトハウスで開かれた会議に出席して、トランプやその他新型コロナウイルス対策本部のメンバーらとワクチンの可能性について協議した。数日後、同社のCEOはメニケラから同社創立者イングマール・ホールに変わった。キュアヴァクは、CEO交代の理由を明らかにしていない。

このニュースが報じられるとすぐに、一部のアナリストはトランプを批判した。

「下劣な話だ。ドイツ政府は、トランプがドイツの科学者から開発中のワクチンの独占的権利を得るために賄賂を贈ろうとしたことを確認している」と、ユニバーシティー・カレッジ・ロンドン(UCL)の政治学者ブライアン・クラース博士はツイートした。「トランプはワクチンをアメリカで独占しようとした。アメリカの品位をどれだけ落とすつもりなのか」

ドイツのキール大学安全保障政策研究所の特別研究員マルセル・ディルサスも、このニュースに関連して、トランプは「パンデミック(ウイルスの世界的大流行)の危機に際して、同盟国から総スカンを食らうような方法を必死で考えている」とツイート。さらに「多くのドイツ人が今やアメリカから『身を守る』必要性について話しあっている」と述べた。

<参考記事>新型コロナウイルス、ワクチン実用化は近づいているのか
<参考記事>新型肺炎ワクチン開発まで「あと数カ月」、イスラエルの研究機関が発表

(翻訳:栗原紀子)

20200324issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2020年3月24日号(3月17日発売)は「観光業の呪い」特集。世界的な新型コロナ禍で浮き彫りになった、過度なインバウンド依存が地元にもたらすリスクとは? ほかに地下鉄サリン25年のルポ(森達也)、新型コロナ各国情勢など。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

サムスン、第1四半期のAI半導体低迷を警告 米の対

ワールド

ガザ検問所に米退役軍人配置へ、イスラエル・アラブ諸

ワールド

米レーガン空港、ヘリとのニアミス事案頻発 80年代

ビジネス

コマツ、今吉専務が社長就任へ 小川社長は会長に
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ革命
特集:トランプ革命
2025年2月 4日号(1/28発売)

大統領令で前政権の政策を次々覆すトランプの「常識の革命」で世界はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
  • 4
    今も続いている中国「一帯一路2.0」に、途上国が失望…
  • 5
    東京23区内でも所得格差と学力格差の相関関係は明らか
  • 6
    ピークアウトする中国経済...「借金取り」に転じた「…
  • 7
    「やっぱりかわいい」10年ぶり復帰のキャメロン・デ…
  • 8
    DeepSeekショックでNVIDIA転落...GPU市場の行方は? …
  • 9
    空港で「もう一人の自分」が目の前を歩いている? …
  • 10
    フジテレビ局員の「公益通報」だったのか...スポーツ…
  • 1
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 2
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 3
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果が異なる【最新研究】
  • 4
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
  • 5
    緑茶が「脳の健康」を守る可能性【最新研究】
  • 6
    DeepSeekショックでNVIDIA転落...GPU市場の行方は? …
  • 7
    血まみれで倒れ伏す北朝鮮兵...「9時間に及ぶ激闘」…
  • 8
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 9
    今も続いている中国「一帯一路2.0」に、途上国が失望…
  • 10
    煩雑で高額で遅延だらけのイギリス列車に見切り...鉄…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のアドバイス【最新研究・続報】
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀…
  • 5
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 6
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 7
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 8
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 9
    中国でインフルエンザ様の未知のウイルス「HMPV」流…
  • 10
    失礼すぎる!「1人ディズニー」を楽しむ男性に、女性…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中