最新記事

米軍事

イラン革命防衛隊の司令官殺害 トランプの攻撃指令に法的根拠はあったのか?

2020年1月5日(日)10時32分

イラン革命防衛隊の精鋭「コッズ部隊」のソレイマニ司令官を空爆して殺害したことについて米政府は、自衛行為だと正当化し、国際法に違反しているとの非難や、法律の専門家や国連の人権関係者の懸念をかわそうとしている。写真はトランプ米大統領。フロリダ州で3日撮影(2020年 ロイター/Tom Brenner)

イラン革命防衛隊の精鋭「コッズ部隊」のソレイマニ司令官を空爆して殺害したことについて米政府は、自衛行為だと正当化し、国際法に違反しているとの非難や、法律の専門家や国連の人権関係者の懸念をかわそうとしている。

イラン精鋭部隊司令官の殺害で米国とイランの間の緊張は高まり、イラン当局は報復を警告した。

法律の専門家からは、イラク政府の同意を得ずにトランプ大統領がイラク国内で攻撃する法的権限があったのか、また攻撃は国際法と米国内法に照らして合法だったのかを疑問視する声がでている。

イラクのアブドルマハディ首相は攻撃について、米軍のイラク駐留を巡る合意に違反していると指摘。またイラク国内の複数の政治勢力は米軍の撤退を求めた。

国連憲章は他国への武力行使を原則として禁止しているが、当該国が領土内での武力行使に合意した場合は例外としている。専門家によると、イラクの同意を得ていないことから米国は攻撃を正当化することは難しいという。

国際法が専門のイェール大学ロースクールのウーナ・ハサウェイ教授はツイッターで、公表された事実からみると今回の攻撃が自衛行為であるという主張は「支持されないようだ」とし、「国内・国際法いずれに照らしても根拠は弱い」と結論付けた。

国防総省は、「今後のイランの攻撃計画」を抑止するためソレイマニ司令官を標的にしたと指摘。トランプ大統領は、司令官は「米国の外交官や兵士への悪意のある差し迫った攻撃を画策していた」と述べた。

テキサス大学オースティン校ロースクールのロバート・チェズニー氏(国家安全保障法が専門)は、国連憲章上の問題を巡る政権のよりどころは自衛と指摘。「アメリカ人殺害作戦の計画を受け入れれば、それに対応する権限が与えられる」と述べた。

オバマ政権時代にイラクの米国大使館で法律顧問を務めたスコット・アンダーソン氏は、国際法下でのトランプ大統領の権限には疑問があるとしながらも、イラク政府がソレイマニ司令官の脅威に対処する意思がない、あるいは対処できないため、同意なしに行動する権利があると主張することは可能だと述べた。

国連憲章第51条は、武力攻撃に対する個別的・集団的自衛権を規定している。米国はこの条項を2014年にシリアで過激派組織イスラム国(IS)に対する行動を取る際に利用した。イラク駐留米軍はISと戦ったが、現在は主にアドバイザー的立場で約5000人が残っているだけだ。

米国とイラクが2008年に調印した戦略的枠組み合意では、イラクの「主権、安全保障、領土の保全」に対する脅威を抑止するために緊密な防衛協力をうたったが、米国がイラクを他国攻撃の拠点として使用することは禁じている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

イスラエル首相らに逮捕状、ICC ガザで戦争犯罪容

ビジネス

米中古住宅販売、10月は3.4%増の396万戸 

ビジネス

貿易分断化、世界経済の生産に「相当な」損失=ECB

ビジネス

米新規失業保険申請は6000件減の21.3万件、4
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 2
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱が抜け落ちたサービスの行く末は?
  • 3
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 4
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 5
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 6
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 7
    ウクライナ軍、ロシア領内の兵器庫攻撃に「ATACMSを…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    若者を追い込む少子化社会、日本・韓国で強まる閉塞感
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 3
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 4
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 7
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 8
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 9
    メーガン妃が「輝きを失った瞬間」が話題に...その時…
  • 10
    中国富裕層の日本移住が増える訳......日本の医療制…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 7
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 8
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 9
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 10
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中