トランプのウクライナ疑惑より切実な「ウクライナ問題」とは何か
ウクライナのゼレンスキー大統領はロシアと合意を結べるか REUTERS
<12月9日にパリで和平会談が開催されるが、そもそも、ロシアの目的はウクライナ東部の併合との見方は誤り。2014年から続く地政学的問題の解決に、今こそ本腰を入れるべき理由>
いわゆるウクライナ疑惑に端を発するトランプ米大統領弾劾騒動が連日大きなニュースになっているが、地政学的に切実なのはもう1つのウクライナ問題のほうだ。
2014年以降、ロシアがウクライナ東部への干渉を続けていて、ウクライナ政府と欧米諸国はそれを押し返せずにいる。その間、この地域では政府軍と親ロシア派の戦闘が泥沼化してきた。
この紛争を解決するために、12月9日、ロシアのプーチン大統領とウクライナのゼレンスキー大統領、仲介役のマクロン仏大統領とメルケル独首相がパリで首脳会談を開く予定だ。本稿執筆時点でまだ結果は分からないが、目覚ましい進展は期待しづらい。双方の主張はあまりに懸け離れている。
いずれにせよ、アメリカ政府は今こそ、この問題の解決に本腰を入れるべきだ。ロシア政府内には、歩み寄りに前向きとも受け取れる動きが見え始めている。
アメリカはこれまで、この問題の本質を見誤ってきた。「ロシアがウクライナに侵攻したのは、ウクライナを完全に自国の一部にするためだ」といった分析を聞かない日はない。このような見方は対ロシア強硬論を勢いづけ、アメリカ政府の政策が話し合いよりも制裁に傾斜する状況を生み出してきた。
しかし、現実はそんなに単純ではない。ロシアがウクライナ東部の親ロシア派勢力を支援した当初の目的は、この地域を併合することではなく、ウクライナの政治体制を連邦制に移行させ、親ロシア派地域の自治権を法的に確保することにあった。
それが実現すれば、ロシアはウクライナのかなりの地域を影響下に置ける。それにより、ウクライナ政府が欧米に接近することに対して事実上の拒否権を握りたいと考えていたのだ。この点はプーチンの複数の発言からも明らかだ。
ロシア政府はこの問題で強硬ではあるかもしれないが、正気を失っているわけではない。ウクライナに侵攻して占領すれば、あまりに多大な犠牲とコストを伴うことくらい、プーチンも理解していただろう。それは、ロシアにとって決して割に合う選択ではなかったのだ。
ロシアに変化の兆し?
見落とせないのは、対ウクライナ政策に関してロシア政府内が一枚岩でないことだ。紛争が長期化するなかで、さまざまな利害や主張を持つ勢力がぶつかり合ってきた。