アマゾンの熱帯雨林が燃えるとアンデスの氷河が解ける
Amazon fires are causing glaciers in the Andes to melt even faster
熱帯雨林が燃えると、凄まじい量の黒色炭素が吐き出される Bruno Kelly-REUTERS
<熱帯雨林火災から吐き出された煤が、アンデスの氷河を覆って太陽の熱を吸収するメカニズムを解明>
南米アマゾンの熱帯雨林では、森林火災が拡大して甚大な被害が出た。熱帯雨林では森林火災が毎年発生しているが、ここ11カ月間を見ると、発生件数は2018年と比べて70%以上も増えている。これはブラジルにおいて、木材伐採や農業のために土地開墾が急激に進んでいることを示している。
森林火災による煙は大気圏に達するほどの高さまで立ち上り、宇宙からでも確認できる。ブラジルの一部の地域では、濃い煙のせいで空港が閉鎖されたほか、都市上空も煙で覆われて暗くなった。
熱帯雨林が燃えると、二酸化炭素や一酸化炭素のほか、煤煙(いわゆる黒色炭素[ブラックカーボン]粒子)が大量に発生する。そのすごさは「大量発生」という言葉でも言い尽くせないほど。南米では毎年、森林や草原が燃やされ、80万トンという途方もない量の黒色炭素が大気中に排出されている。
欧州の年間排出量の倍
この量は、ヨーロッパ全体のエネルギー消費で過去12カ月間に排出された黒色炭素のほぼ2倍という驚くべきものだ。こうした桁外れの量の煙は、健康問題を引き起こすばかりか、地球温暖化の原因にもなる。さらに、こうした煙は氷河の融解を引き起こす、より直接的な要因であることも、科学的研究で次々と明らかになっている。
オンライン学術雑誌「サイエンティフィック・リポーツ」に掲載された最新の研究論文では、2010年にアマゾンで発生した森林火災の煙によって、アンデス山脈の氷河融解がどのように進んだかが解明されている。
アマゾンの森林火災がピークに達する8月から10月のあいだに黒色炭素が排出されると、風がその煙を、アンデス山脈の海抜5000メートル以上の地点にある氷河まで運んでいく。
黒色炭素の粒子は、肉眼では見えないものの、氷河が太陽光を反射する割合(アルベド)を低下させる。直射日光が当たったときに、暗い色の車のほうが明るい色の車よりも早く温度が上がるのと同様に、黒色炭素の粒子で覆われた氷河は熱を吸収しやすくなる。その結果、融解も加速する。
研究チームは、粒子が大気圏を移動する様子を示すコンピューターシミュレーション・モデル「HYSPLIT」を使い、アマゾンから立ち上る煙が、風によってアンデス山脈まで運ばれる様子を再現した。煙はその後、目に見えない霧となって氷河に降り注ぐ。2010年に発生したアマゾン森林火災により、ボリビアにあるゾンゴ氷河から流出する水の量は4.5%増加したと、研究チームは明らかにした。
さらに、氷河を覆う塵が多ければ多いほど、氷河が吸収する熱の量も多くなる。南米上空の塵の濃度は20世紀の間に倍増したが、その原因のひとつは農業や牧畜のための土地の開墾だ。
人々の水源が消える
氷河は人類にとって、重要な自然資源のひとつだ。ヒマラヤ山脈の氷河は、2億4000万人に飲用水を供給しているほか、食料生産にも使われており、19億人がこうした食料に依存している。南米でも、氷河はきわめて重要な水源だ。ペルー中西部のワラスなど一部の都市では、干ばつになると飲用水の85%以上を氷河から得ている。しかし、生きていく上で欠かせないこうした貴重な水源は、地球温暖化の影響が拡大するにつれ、ますます危ぶまれるようになっている。アンデス山脈の氷河は、過去50年間で急速に減少しているのだ。
南米の熱帯地域では、気候変動によって乾燥化がさらに進行すると予測される。乾いた気候になればほこり塵が増え、火災の発生件数も増加する。さらに、干ばつの頻度が増すことで、人々はますます氷河の水に依存する。
前述した研究が示すように、こうした貴重な水源は不幸にも、乾燥した気候と火災によって消滅がますます速まっている。黒色炭素が氷河を融解させるプロセスはきわめて複雑であり、アンデス山脈の将来的な氷河融解の予測に使われている気候モデルには今のところ、黒色炭素が組み込まれていない。つまり、将来の融解速度は過小評価されている可能性があると、研究論文著者たちは指摘している。
南米に住む人々が氷河を水源として依存しており、こうした氷河の融解速度は気候温暖化が進むとともに速まる可能性があることから、黒色炭素ならびにアルベド(光の反射率)の変化という複雑なメカニズムの研究が急がれる。
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(翻訳:ガリレオ)
Matthew Harris, PhD Researcher, Climate Science, Keele University
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