最新記事

事件

振り込め詐欺は中国相手が儲かる? インドネシア85人逮捕など東南アジア各国で拠点摘発

2019年11月28日(木)18時00分
大塚智彦(PanAsiaNews)

マレーシアでは680人を逮捕、約300人逃走

こうした中国人による振り込め詐欺はマレーシアでも社会問題となっており、10月26日には首都クアラルンプール市内で中国人約1000人が潜伏していると情報提供があったビルを地元警察や入国管理局が一斉に摘発に乗り出し、680人を逮捕したが、約300人が逃走して現在もその行方を追っているという事態が起きている。

マレーシアのケースもインドネシアと同様に中国本土の中国人を対象にした振り込め詐欺や投資を呼びかける形で5月以降詐欺が行われていたとみている。

約1000人の中国人は詐欺に使われるコールセンターの役割を果たしていたものとみられ、摘発現場からは現金などは押収されなかったという。

中国人はいずれも不法就労だったが、コールセンターでは1人に対して毎月約600ドルが報酬として支払われていたほか、詐欺の実績に応じた歩合の報酬も払われ、多い場合だと月1670ドルが支払われていたという。

マレーシアのケースも摘発のきっかけは、インドネシアと同じく中国捜査当局からの情報提供と周辺住民からの通報によるものだったとしている。このため中国国内で続出する詐欺被害者からの訴えを基に中国警察当局が詐欺グループの拠点が海外にあることを突き止め、関係国の警察に情報提供と捜査依頼をしているものとみられている。

フィリピンでも中国人大量検挙

フィリピンでも9月11日にマニラ首都圏パッシグ市オルティガスにあった商業施設に中国本土から詐欺容疑で指名手配中の中国人4人が潜伏しているとの情報が寄せられたために地元警察が踏み込んだところ、施設内にいた中国人273人を発見、不法就労の容疑で逮捕する事案も起きている。

逮捕された中国人は全員が不法滞在で本土の中国人を対象にしたネット上のオンラインカジノで荒稼ぎしていたという。その後の捜査でオンラインカジノの被害者は1000 人以上で被害総額は約1400万ドルだったことがわかっている。

このようにオンラインカジノ、投資、振り込め詐欺と形態は異なるものの、いずれも中国本土の富裕層を中心にした中国人を対象にした詐欺行為であり、東南アジア一帯に組織的に中国人を送りこんでいる大規模なシンジケートがあることは間違いないと各国捜査当局はみている。

このため中国の警察や移民当局などと密接な捜査協力、情報交換で今後全容を明らかにして同様犯罪の撲滅を図りたいとしている。


otsuka-profile.jpg[執筆者]
大塚智彦(ジャーナリスト)
PanAsiaNews所属 1957年東京生まれ。国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞社入社、長野支局、東京外信部防衛庁担当などを経てジャカルタ支局長。2000年産経新聞社入社、シンガポール支局長、社会部防衛省担当などを歴任。2014年からPan Asia News所属のフリーランス記者として東南アジアをフィールドに取材活動を続ける。著書に「アジアの中の自衛隊」(東洋経済新報社)、「民主国家への道、ジャカルタ報道2000日」(小学館)など

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

原油先物5週間ぶり高値、トランプ氏のロシア・イラン

ビジネス

トランプ関税で目先景気後退入り想定せず=IMF専務

ビジネス

トランプ関税、国内企業に痛手なら再生支援の必要も=

ビジネス

現代自、米ディーラーに値上げの可能性を通告 トラン
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 2
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者が警鐘【最新研究】
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 5
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 6
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 7
    3500年前の粘土板の「くさび形文字」を解読...「意外…
  • 8
    メーガン妃のパスタ料理が賛否両論...「イタリアのお…
  • 9
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2…
  • 10
    なぜ「猛毒の魚」を大量に...アメリカ先住民がトゲの…
  • 1
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き詰った「時代遅れ企業」の行く末は?【アニメで解説】
  • 2
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 3
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 4
    【独占】テスラ株急落で大口投資家が本誌に激白「取…
  • 5
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 6
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 7
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】アメリカを貿易赤字にしている国...1位は…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中