最新記事

アフリカ

絶望の縮図シエラレオネに希望を探し求めて

Hopelessness and Hope

2019年11月1日(金)18時10分
サム・ヒル(作家、コンサルタント)

ヘリテージ財団が毎年発表する経済自由度指数は、資本家や起業家の活動しやすさの目安となる。

ランキングのトップは、90.2の香港。アメリカは76.8。それに対し、シエラレオネは47.5。これは、180カ国中で167位だ。

同財団によれば、シエラレオネでは「法制度の不備により、所有権や契約が十分に保護されていない」。ビジネス上の紛争を解決するための透明性ある制度も確立していない。

腐敗の問題もある。『国家はなぜ衰退するのか』(邦訳・早川書房)の共著者であるマサチューセッツ工科大学(MIT)のダロン・アセモグル教授(経済学)はこう述べている。「劣悪な政府は、過半数の国民にとって適切に機能しないが、一部の人たちにとっては常にうまく機能する。その恩恵に浴するのは、たいてい社会の最上層の人たちだ」

強力な民間セクターを形成できないというのは、アフリカのほとんどの国が直面している問題だ。コロンビア大学ビジネススクールのR・グレン・ハバード教授の共著『援助の罠』では、この問題を克服する手段として「アフリカ版マーシャルプラン」を提唱している。

第二次大戦後、西欧の復興を支援するためにアメリカが主導したマーシャルプラン(欧州復興計画)を手本に、先進国が大規模な援助を行いアフリカ全域に市場経済を確立すべきというのだ。マーシャルプランはインフラ投資、融資、技術移転などの形で実施された。

もっとも、強力な民間セクターを築くことは簡単でない。腐敗の蔓延に加えて、援助関係者、世界銀行の職員、政府の官僚など、民間のことをよく知らない人たちが取り組みを主導する場合が多いことも問題だ。

このような人たちは概して、大規模農業への転換などの経済的効率を重んじた方策より、マイクロファイナンスや協同組合といった「政治的に正しい」方策を好む。規制緩和にもしばしば拒絶反応を示す。

人々の絶望はあまりに深い

私は、旧友ボックリー・サルーの親戚を介してカイラフンでジェニバと再会できた(残念ながらボックリーは10年ほど前に世を去っていた)。

magw191101_Africa3.jpg

1925年にフリータウンを訪れた宗主国イギリスのエドワード8世 KEYSTONE/GETTY IMAGES

ジェニバと夫のムサ・コネーは、小さな家に住んでいた。狭苦しい応接間にはテーブルが1つあり、太陽光発電で動くDVDプレーヤーが置いてあった。ドアは薄いベニヤ板。電気も水道も通じていない。

夕食後、シエラレオネとアメリカの違いを話し合った。私はどちらの国も悪く言わないように気を付けていたが、通訳が途中で口を挟んだ。

「あなたは分かっていない。私は何カ月も給料が払われないことがある。私が住んでいる建物には50人が生活していて、トイレは1つしかない。バスルームを使いたいときは、朝4時に利用しないといけない......アメリカは天国だ。パラダイスだ。アメリカは素晴らしい。私は知っている! 仕事も見つかるだろう。床清掃の仕事だっていい」

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

英生産者物価、従来想定より大幅上昇か 統計局が数字

ワールド

トランプ氏、カナダに35%関税 他の大半の国は「一

ワールド

対ロ軍事支援行った企業、ウクライナ復興から排除すべ

ワールド

米新学期商戦、今年の支出は減少か 関税などで予算圧
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:大森元貴「言葉の力」
特集:大森元貴「言葉の力」
2025年7月15日号(7/ 8発売)

時代を映すアーティスト・大森元貴の「言葉の力」の源泉にロングインタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、ネットが感動の渦
  • 2
    トランプ関税と財政の無茶ぶりに投資家もうんざり、「強いドルは終わった」
  • 3
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に...「曾祖母エリザベス女王の生き写し」
  • 4
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...AP…
  • 5
    アメリカを「好きな国・嫌いな国」ランキング...日本…
  • 6
    名古屋が中国からのフェンタニル密輸の中継拠点に?…
  • 7
    アメリカの保守派はどうして温暖化理論を信じないの…
  • 8
    【クイズ】日本から密輸?...鎮痛剤「フェンタニル」…
  • 9
    犯罪者に狙われる家の「共通点」とは? 広域強盗事…
  • 10
    ハメネイの側近がトランプ「暗殺」の脅迫?「別荘で…
  • 1
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 2
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、ネットが感動の渦
  • 3
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...APB「乗っ取り」騒動、日本に欠けていたものは?
  • 4
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸…
  • 5
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に..…
  • 6
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコ…
  • 7
    「本物の強さは、股関節と脚に宿る」...伝説の「元囚…
  • 8
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」…
  • 9
    為末大×TAKUMI──2人のプロが語る「スポーツとお金」 …
  • 10
    職場でのいじめ・パワハラで自死に追いやられた21歳…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事故...「緊迫の救護シーン」を警官が記録
  • 4
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 5
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 6
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 7
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 8
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 9
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 10
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越し…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中