絶望の縮図シエラレオネに希望を探し求めて
Hopelessness and Hope
ところが現実は違った。今やシンガポールは世界屈指の金持ち国家。一方、CIAワールドファクトブックのGDPランキングでは、シエラレオネは229カ国中158位だ。
なぜこれほどくっきりと明暗が分かれたのか。シエラレオネなどアフリカ諸国が経済的に後れを取った理由は諸説あるが、大まかに3つの説に分類できる。「アフリカ人が悪い」説、「白人が悪い」説、「誰のせいでもない」説だ。
まずアフリカ人悪玉説。トランプのようにノルウェーからの移民は大歓迎だが、アフリカ系アメリカ人は出身国に帰れ、などと公言するやからがいるが、オブラートに包んで同様の主張をする人もいる。スウェーデン出身の政治学者ダニエル・シャッツは自国が豊かなのは「プロテスタントの職業倫理」を持つスカンディナビア人の国(つまり生粋の白人の国)だからだと論じている。
これよりはましな議論だが、アフリカ諸国は有能な指導者に恵まれず、政府が十全に機能していない、という主張も聞かれる。アフリカの指導者は多くの場合「親分肌」で、身内びいきと腐敗がはびこる。選挙は不公正で、指導者は有権者の審判を恐れなくていい。これではまともな統治は期待できず、公正なビジネス環境が整備されないため、資本は流入せず、経済は停滞したままだ。
鉱物資源の豊かさがあだに
とはいえ、こうした主張は「被害者たたき」にすぎず、悪いのは白人だ、という声もある。コンゴ内戦を取材していたスペイン人記者は、「アフリカで起きている悪いことは全部、おまえら白人のせいだ」と現地の武装勢力に脅されたという。
全部とは言わないまでも、奴隷制や植民地主義など、白人がもたらした弊害は多い。1884〜85年のベルリン会議で、欧州の列強はアフリカ分割のルールを決めた。結果、民族集団やその勢力範囲を無視して植民地の境界線が引かれ、独立後の国のまとまりにも負の影響が残った。
一方、誰のせいでもない説を提唱するのは、『銃・病原菌・鉄』の著者ジャレッド・ダイアモンドや生物地理学者のジェフリー・サックスだ。彼らは発展を阻害する要因を地理的条件や気候に求める。
3つの説のどれが正しいと言うより、諸条件が複合的に絡まって現状を招いたとみるべきだろう。シエラレオネとほぼ同時期にイギリスから独立したシンガポールも地理的には熱帯に位置し、多様な民族集団を抱え、腐敗がはびこる地域に位置している。それなのになぜ発展したのか。
主要な交易ルートに位置し、いち早く資本主義経済を取り入れたこと。さらに20世紀の最も偉大な指導者の1人とも言われるリー・クアンユーが初代の首相だったことも大きい。