最新記事

アフリカ

絶望の縮図シエラレオネに希望を探し求めて

Hopelessness and Hope

2019年11月1日(金)18時10分
サム・ヒル(作家、コンサルタント)

magw191101_Africa6.jpg

首都フリータウン(2006年撮影)。シエラレオネは1961年にイギリスから独立した後も自立への途上にある CHRIS JACKSON/GETTY IMAGES

私がシエラレオネに注目した理由はもう1つ。半世紀近く前にアメリカ平和部隊の一員として現地で生活し、当時と比べてどの程度進歩したか(または進歩していないか)が分かるからだ。内戦以来音信不通の友人たちのことも気掛かりだった。そこで昨年再訪し、ジャーナリストや援助活動家でもめったに行かない奥地で、学者や専門家が話をしない人々と直接話をした。その結果分かったのは、予想をはるかに超える困難で絶望的な現実だった。だが同時に解決策はあるという確信も得た。

50年前と変わらない現実

シエラレオネは面積が南カリフォルニアの半分ほど、丸い形で両端にヨーダのような「耳」がある。左耳は首都であるフリータウンのある西部。私が目指すのは右耳、荒れた国境の町カイラフンだ。内戦もエボラもここから始まった。

普通、フリータウンの外に出るアメリカ人はエアコン完備のランドクルーザーと運転手を雇う。そうしないと危険だからでもある。狭い道は岩や轍(わだち)やぬかるみだらけ。車はがたがたでドライバーはたいてい酔っている。仕事のない戦闘員もいまだに大勢いる。奥地では電子決済はできないから外国人が大金を持ち歩いていることを誰もが知っている。

それでも私は住民と同じ視点でこの国を見て、旅したかった──平和部隊にいた頃のように。

そこでフリータウンを起点に、現地の貧しい人々と同様、公共交通機関と徒歩で、行く先々で現地のものを食べながら旅することにした。

自転車タクシーで首都の渋滞を何とか突破し、車を4台乗り継いだ後、ポダポダと呼ばれる小型のミニバンに乗り込んだ。途中の町で別のミニバンに乗り換えて郊外まで行き、そこから満員のおんぼろバスに揺られて山道を進んだ。

私の人生最悪の旅、不快で危険でうんざりするほど長い旅だった。13時間かけて車を9台乗り継ぎ、約320キロの道のりを深夜まで。だがこれが貧しい国の貧しい人々の日常だ。私が平和部隊にいた頃と大して変わってはいなかった。

「この国には大きな可能性がある」と、米政府の職員が私に言った。「その証拠に国土がもっと狭く、天然資源もないシンガポールだって目覚ましい発展を遂げたではないか」

これは安直な言い分だ。実際、1960年代にはシエラレオネとシンガポールは経済的にはほぼ同レベルだった。当時、外国人投資家が目を付けそうなのはマレーシア連邦から追い出されたばかりのシンガポールではなく、シエラレオネのほうだった。この国には民主的な選挙で成立した政府があり、鉱物資源も豊富。「緑の革命」が広がれば、飢餓と貧困も解消されそうだった。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

アマゾン、3年ぶり米ドル建て社債発行 120億ドル

ビジネス

FRB追加利下げは慎重に、金利「中立水準」に近づく

ビジネス

米雇用市場のシグナル混在、減速の可能性を示唆=NE

ワールド

中国、レアアース問題解決に意欲 独財務相が何副首相
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    悪化する日中関係 悪いのは高市首相か、それとも中国か
  • 3
    「中国人が10軒前後の豪邸所有」...理想の高級住宅地「芦屋・六麓荘」でいま何が起こっているか
  • 4
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 5
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 6
    南京事件を描いた映画「南京写真館」を皮肉るスラン…
  • 7
    山本由伸が変えた「常識」──メジャーを揺るがせた235…
  • 8
    経営・管理ビザの値上げで、中国人の「日本夢」が消…
  • 9
    反ワクチンのカリスマを追放し、豊田真由子を抜擢...…
  • 10
    「水爆弾」の恐怖...規模は「三峡ダムの3倍」、中国…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 4
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 5
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 6
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 7
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 8
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 9
    ヒトの脳に似た構造を持つ「全身が脳」の海洋生物...…
  • 10
    「不衛生すぎる」...「ありえない服装」でスタバ休憩…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 5
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 6
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 7
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中