トランプ「無策」外交でさらに遠のく中東からの米軍撤退
Trump and “Endless Wars”
対ISIS戦ではクルド人勢力と米軍が協力したが(写真は対ISIS戦で死亡した戦友を悼む兵士) ERIK DE CASTRO-REUTERS
<米政権がクルド人勢力を見捨てれば中東地域でISISの再興を招く恐れが>
トルコ軍がシリア北東部に攻め込んでクルド人武装勢力への攻撃を始めると、ドナルド・トランプ米大統領は直ちに、アメリカはこの攻撃を「支持しない」との声明を出した。しかし、この声明には続きがあった。
「政治の世界に足を踏み入れて以来、この手の終わりがなくて意味のない戦争に関わるのはごめんだと私は言ってきた。......トルコは約束している。市民を守り、キリスト教徒を含む宗教的少数派を守り、人道上の危機が起きないようにすると。この約束は今後も守らせる」
いかがだろう。トランプがトルコのレジェップ・タイップ・エルドアン大統領を「そそのかして」今回の攻撃に踏み切らせたとは言うまい。だが事実上の「お墨付き」を与えたと言えるのではないか。中東での戦争は金がかかるし複雑怪奇だから手を引く、シリアからも米軍を撤退させるとトランプは言う。しかし現実には、彼の言動によって米軍はますます中東の泥沼に深くはまる公算が高い。
米兵を中東の戦場から引き揚げさせたい。その思いは反トランプ陣営にも共通している。だが実際に米軍がシリアから撤収している証拠はない。トランプ政権の高官でさえ、大統領の発言は「米軍のシリアからの全面撤退を意味しない。50~100人程度の特殊部隊がシリア領内の別な場所へ移動しただけだ」と語っている。
そうであれば、トランプは米兵を祖国へ帰そうとしているのではなく、トルコ軍の邪魔にならない場所へ移動させ、テロ組織ISIS(自称イスラム国)の掃討戦でアメリカと共闘したクルド人を、トルコ軍が掃討するのを助けているだけだ。
オバマの過ちを繰り返す
先月にも妙なことがあった。アフガニスタンの和平交渉を進めるためと称し、トランプは反政府勢力タリバンの代表をアメリカに招くと表明していたのだが、直前になって一方的に交渉決裂を宣言した。もともと妥結の可能性は低かったとしても、アメリカ主導の和平会談を取り消したのはトランプの気まぐれ以外の何物でもない。
どうやらトランプは、軍事力以外で中東情勢に影響を及ぼす方策を知らないようだ。根気強い外交努力には興味がない。だから結果として、ロシアやイラン、そしてトルコに外交面の主導権を握られてしまった。