そっくりさんに襲われる悪夢、見終わっても落ち着かない傑作ホラー『アス』
Nobody Is Safe from Us
だが、侵入者の中で言葉を話せるのがアデレードのドッペルゲンガーだけということは、明かしておこう。そしてその腹の底からしみ出るようなしゃがれ声が、実に不気味で素晴らしい。役作りの妙は声色だけではない。ニョンゴは出づっぱりで、主人公とドッペルゲンガーの2役に挑戦。人間の中に潜む怪物と、怪物の中にいる人間を見事に表現し、圧巻と言うほかない。
ピールはカメラの位置や照明、音楽から片隅の小道具までこだわり抜く映画作家だ。今回はドッペルゲンガーをめぐる物語とあって、反射と反復を多用している。前半のシーンのほとんどが後半で繰り返されるか、対になる場面がある。終盤のどんでん返しは物語を根底から揺るがし、観客はそれまでの出来事を一から検証し直すことになる。
映画館を出るときは、周囲の人々がちょっと違って見えるはず。この人たちは私の影? いや、私がこの人たちの影なのか。私たちには見えない、見ようとしない幻の自分、幻の社会が存在するのではないか──。
見終わった後も落ち着かない気持ちにさせるのが、傑作のホラー映画だ。
US
『アス』
監督/ジョーダン・ピール
主演/ルピタ・ニョンゴ
ウィンストン・デューク
日本公開中
©2019 The Slate Group
<本誌2019年9月17日号掲載>
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