最新記事

成功

悲報...「努力は才能に勝る」は嘘だった

2019年8月28日(水)17時32分
松丸さとみ

毎日、懸命に努力している人には悲しいお知らせ...... Thomas_EyeDesign -iStock

<米大学の研究者が意図的な練習を1万時間行えば本当に一流になれるのか?を検証した......>

一流の人は1万時間の練習を積んでいる

「努力は才能に勝る」という言い習わしがある。これを信じて毎日、懸命に努力している人には悲しいお知らせだ。米オハイオ州にあるケース・ウェスタン・リザーブ大学の心理学者がこのほど行った調査で、「一流になるにはただ長時間練習すればいいわけではない」との結論が導き出された。結果は、英国王立協会のオンライン科学誌ロイヤル・ソサエティ・オープン・サイエンスに掲載されている。

この調査を行ったのは、ケース・ウェスタン・リザーブ大学のブルック・マクナマラ准教授とメガ・マイトラ氏だ。1993年に米フロリダ州立大学の心理学者エリクソン氏らが発表した、バイオリニストの実力と練習時間の長さの関係を紐解いた研究を元にした。

1993年のエリクソン氏らの調査では、一流のバイオリニストは20歳までに平均で1万時間の練習を積み重ねていたことが分かった。エリクソン氏らはここから、何かに秀でるのに必要なのは、生まれ持った才能ではなく「1万時間の意図的な練習」だと結論付けた。

この研究はその後、マルコム・グラッドウェルが著書『天才!成功する人々の法則』(講談社)で、「1万時間練習を続ければ本物になる」として取り上げて「1万時間の法則」を提唱するなど、さまざまな分野で注目を集めてきた。

練習時間が実力に占めた割合はわずか25%

そこでマクナマラ准教授らは、意図的な練習を1万時間行えば本当に一流になれるのか?を検証するべく、1993年の調査を再現することにした。同准教授らは、バイオリン奏者を集めて実力別に「非常に良い」「良い」「まあまあ」の3グループにそれぞれ13人ずつ分けた。その後、各奏者に対し、これまでの音楽歴や実績、練習時間について聞き取り調査をした。さらに、1週間の練習日記を付けてもらった。

「まあまあ」のバイオリン奏者は20歳までに平均6000時間の練習を積み重ねていたが、「非常に良い」と「良い」のグループは共に、平均で1万1000時間の練習を重ねていたことが分かった。練習に費やした時間が実力の違いに占めた割合は、4分の1程度だったという。

マクナマラ准教授は英ガーディアン紙に対し、一流のレベルにまで達してしまえば、みんなかなりの練習を積み重ねて来ているため、実力の違いに練習が占める割合はそこまで大きくはならないと説明する。そのため、そこから抜きん出てスーパーエリートになるには、練習以外の要因がポイントになるとしている。何がその要因になるかは、例えばチェスなら知能やワーキングメモリ、スポーツならいかに効率よく酸素を使えるか、などと分野によって異なるという。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正

ワールド

イスラエル政府、ガザ停戦合意を正式承認 19日発効

ビジネス

米国株式市場=反発、トランプ氏就任控え 半導体株が

ワールド

ロシア・イラン大統領、戦略条約締結 20年協定で防
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさかの密航者」をCAが撮影...追い出すまでの攻防にSNS爆笑
  • 3
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 4
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 5
    感染症に強い食事法とは?...食物繊維と腸の関係が明…
  • 6
    フランス、ドイツ、韓国、イギリス......世界の政治…
  • 7
    オレンジの閃光が夜空一面を照らす瞬間...ロシア西部…
  • 8
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者…
  • 9
    注目を集めた「ロサンゼルス山火事」映像...空に広が…
  • 10
    「ウクライナに残りたい...」捕虜となった北朝鮮兵が…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 5
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 6
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 7
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 8
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 9
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 10
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 7
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 10
    「腹の底から笑った!」ママの「アダルト」なクリス…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中