アメリカが拷問と、いまだに決別できない深刻な理由
After Torture
モーガンによれば、09年にHIGが新設されたときも同じような心理が作用していたという。「その頃、CIAの評判が悪くなっていた」
要するに、「科学的な根拠を受け入れて方針を変更したとは考えにくい」というのだ。
CIAはブラックサイトでの尋問から手を引いたと、現役職員もOBも口をそろえる。ジーナ・ハスペル長官は就任前の議会の承認公聴会で、水責めなどの拷問禁止を約束した。
だが、拷問禁止後も大きな問題が残ったと、モーガンは言う。「『尋問はこうやれ』という具体的な指針が存在しなかった」ことだ。特殊部隊などが現場レベルでどんな尋問を行っているかはほとんど知られていないと、モーガンらは指摘する。
元海軍犯罪捜査官のファロンによれば、「国防総省が02年にEITを採用したとき、マニュアルや指針が導入されたが、無視された」という。
今ではEIT自体も禁止されているが、「改訂版」のAFMは虐待の余地をたっぷり残しているという批判が絶えない。例えば、捕虜に対する完全かつ威圧的な優位の確立を推奨していることなどだ。
「身体、感情、心理的支配(の手法)は放棄しなければならない」と言うのは、国防総省の上級尋問官だったスティーブン・クラインマン退役空軍大佐だ。屈辱は怒り、憤慨、抵抗の感情や、報復への欲求を呼び覚ますと、クラインマンは指摘する。それこそまさに、人間をテロに追いやる要因だ。
「屈辱がテロリストを生むのであれば、なぜ屈辱によってテロリストが自白すると考えるのか。科学としてはもちろん、論理的にも矛盾している」と、クラインマンは言う。極端な心理的・肉体的苦痛は虚偽の自白を生みやすいという研究結果もある。
人気ドラマに影響されて
ただし、それ以上に明確な科学的証拠はほとんど知られていない。シャルフのような説得力のある証拠もまれにあるが、あくまで個別事例にすぎない。CIAの秘密工作部門の責任者だったホセ・ロドリゲスがブラックサイトの拷問を記録したテープの破棄を命じたせいで、貴重な科学的証拠が失われたと、モーガンは言う。「資格のある科学者がそれを検証すれば、きちんと反論できたのだが......」
「(AFMは)全面的に改定する必要がある。その尋問手法の有効性を客観的に評価されたことが一度もないからだ」と、イラクでの捕虜虐待の暴露に一役買ったクラインマンは主張する。「彼らには(その手法の有効性を)補強する証拠のかけらを提供する義務すらない」
だが、脅しと強迫、拷問がほぼ常に成果を上げるテレビの刑事ドラマや映画を何十年も見てきたアメリカ人の視点を変えることは容易ではない。00年代に大人気を博した対テロ捜査が題材のドラマ『24─ TWENTY FOUR─』の主人公ジャック・バウアーは、強引な手法で容疑者を次々に自白させ、事件を解決した(奇妙なことに、バウアーはテロリストに拷問されても自白しない)。