米ロ中にインドも参戦──宇宙軍拡ウォーズはどうにも止まらない
From Moon Walk to Space Wars
攻撃を受ける危険にさらされているのは、アメリカの人工衛星だけではない。多くの国が膨大な数の人工衛星を周回させている。通信、航空機などの航行、金融取引、天気予報など、私たちの生活に欠かせない多くの活動が人工衛星に依存している。人工衛星は、情報収集、監視、早期警戒、軍備管理の検証、ミサイル誘導など、安全保障で果たしている役割も大きい。
宇宙開発競争では、重要なプレーヤーがもう1カ国ある。インドだ。
インドは今年3月、ミサイルで自国の人工衛星を破壊する実験を行った。宇宙空間の物体を破壊することに成功したのは、アメリカ、ロシア、中国に続く4カ国目だ。この実験では、その数日前にアメリカが弾道ミサイル撃墜実験で用いたのと同じ技術が用いられた。
中国が07年に人工衛星破壊実験を行ったときとは異なり、今回のインドの実験が国際的な批判を浴びることはなかった。その最大の理由は、インドが宇宙戦争での中国の強みをそぐことを目的にしていた点にある。
米戦略軍のジョン・ハイテン司令官もインドの行動を擁護した。インドは「宇宙から自国に及ぶ脅威を恐れて、宇宙空間での自衛手段を整備する必要を感じた」のだと、ハイテンは述べている。
この理屈は、核保有国が途方もない量の核兵器を持つことを正当化するために用いられた主張によく似ている。核兵器と同じことが起きるとすれば、世界の国々は抑止の考え方に基づいて宇宙空間で攻撃的兵器を増強し、最終的には「相互確証破壊」の論理だけが世界戦争を防ぐ頼みの綱という状況に至る。
そこまで行く前に、国際的な規範とルールを強化すべきだ。67年の宇宙条約は宇宙空間への大量破壊兵器の設置を禁じているが、それ以外の兵器の配備や人工衛星破壊実験は禁止していない。宇宙空間での武力の使用を全て禁止する新しい条約が必要だ。それも、違反に対する制裁を明確に定め、それを確実に履行することが欠かせない。
宇宙空間における責任ある行動についての規範も明確化させるべきだ。それを通じて、人工衛星破壊実験など、人工衛星の安全を脅かすような行動を抑止する必要がある。
私たちはつい、地球上で激化する対立や紛争に目を奪われがちだ。もちろん、ペルシャ湾や南シナ海で航行の自由を確保することが重要なのは言うまでもない。しかし、世界の平和と安全を維持するためには、宇宙空間で航行の自由を確保することもそれと同じくらい重要だ。
<本誌2019年8月6日号掲載>
※8月6日号(7月30日発売)は、「ハードブレグジット:衝撃に備えよ」特集。ボリス・ジョンソンとは何者か。奇行と暴言と変な髪型で有名なこの英新首相は、どれだけ危険なのか。合意なきEU離脱の不確実性とリスク。日本企業には好機になるかもしれない。
2024年11月26日号(11月19日発売)は「超解説 トランプ2.0」特集。電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること。[PLUS]驚きの閣僚リスト/分野別米投資ガイド
※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら