最新記事

軍事

米ロ中にインドも参戦──宇宙軍拡ウォーズはどうにも止まらない

From Moon Walk to Space Wars

2019年8月2日(金)17時00分
ブラマ・チェラニ(インド政策研究センター教授)

攻撃を受ける危険にさらされているのは、アメリカの人工衛星だけではない。多くの国が膨大な数の人工衛星を周回させている。通信、航空機などの航行、金融取引、天気予報など、私たちの生活に欠かせない多くの活動が人工衛星に依存している。人工衛星は、情報収集、監視、早期警戒、軍備管理の検証、ミサイル誘導など、安全保障で果たしている役割も大きい。

宇宙開発競争では、重要なプレーヤーがもう1カ国ある。インドだ。

インドは今年3月、ミサイルで自国の人工衛星を破壊する実験を行った。宇宙空間の物体を破壊することに成功したのは、アメリカ、ロシア、中国に続く4カ国目だ。この実験では、その数日前にアメリカが弾道ミサイル撃墜実験で用いたのと同じ技術が用いられた。

中国が07年に人工衛星破壊実験を行ったときとは異なり、今回のインドの実験が国際的な批判を浴びることはなかった。その最大の理由は、インドが宇宙戦争での中国の強みをそぐことを目的にしていた点にある。

米戦略軍のジョン・ハイテン司令官もインドの行動を擁護した。インドは「宇宙から自国に及ぶ脅威を恐れて、宇宙空間での自衛手段を整備する必要を感じた」のだと、ハイテンは述べている。

この理屈は、核保有国が途方もない量の核兵器を持つことを正当化するために用いられた主張によく似ている。核兵器と同じことが起きるとすれば、世界の国々は抑止の考え方に基づいて宇宙空間で攻撃的兵器を増強し、最終的には「相互確証破壊」の論理だけが世界戦争を防ぐ頼みの綱という状況に至る。

そこまで行く前に、国際的な規範とルールを強化すべきだ。67年の宇宙条約は宇宙空間への大量破壊兵器の設置を禁じているが、それ以外の兵器の配備や人工衛星破壊実験は禁止していない。宇宙空間での武力の使用を全て禁止する新しい条約が必要だ。それも、違反に対する制裁を明確に定め、それを確実に履行することが欠かせない。

宇宙空間における責任ある行動についての規範も明確化させるべきだ。それを通じて、人工衛星破壊実験など、人工衛星の安全を脅かすような行動を抑止する必要がある。

私たちはつい、地球上で激化する対立や紛争に目を奪われがちだ。もちろん、ペルシャ湾や南シナ海で航行の自由を確保することが重要なのは言うまでもない。しかし、世界の平和と安全を維持するためには、宇宙空間で航行の自由を確保することもそれと同じくらい重要だ。

©Project Syndicate

<本誌2019年8月6日号掲載>

20190806issue_cover200.jpg
※8月6日号(7月30日発売)は、「ハードブレグジット:衝撃に備えよ」特集。ボリス・ジョンソンとは何者か。奇行と暴言と変な髪型で有名なこの英新首相は、どれだけ危険なのか。合意なきEU離脱の不確実性とリスク。日本企業には好機になるかもしれない。


20250401issue_cover150.png
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年4月1日号(3月25日発売)は「まだ世界が知らない 小さなSDGs」特集。トランプの「逆風」をはね返す企業の努力が地球を救う

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

午前の日経平均は続伸、トランプ関税への不安後退 中

ワールド

ロシア・ウクライナ、黒海・エネ停戦で合意 ロ「制裁

ワールド

インド政府、サムスンに関税と罰金で6億ドル強の支払

ワールド

米大統領と裁判所の対立、世論調査で大多数が司法判断
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:まだ世界が知らない 小さなSDGs
特集:まだ世界が知らない 小さなSDGs
2025年4月 1日号(3/25発売)

トランプの「逆風」をはね返す企業の努力が地球を救う

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き詰った「時代遅れ企業」の行く末は?【アニメで解説】
  • 2
    【独占】テスラ株急落で大口投資家が本誌に激白「取締役会はマスクCEOを辞めさせろ」
  • 3
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 4
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 5
    「トランプが変えた世界」を30年前に描いていた...あ…
  • 6
    「テスラ離れ」止まらず...「放火」続発のなか、手放…
  • 7
    トランプ批判で入国拒否も?...米空港で広がる「スマ…
  • 8
    老化を遅らせる食事法...細胞を大掃除する「断続的フ…
  • 9
    「悪循環」中国の飲食店に大倒産時代が到来...デフレ…
  • 10
    【クイズ】アメリカで「ネズミが大量発生している」…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 3
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 4
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 5
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 6
    「低炭水化物ダイエット」で豆類はNG...体重が増えな…
  • 7
    「テスラ離れ」止まらず...「放火」続発のなか、手放…
  • 8
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 9
    【クイズ】世界で2番目に「レアアース」の生産量が多…
  • 10
    古代ギリシャの沈没船から発見された世界最古の「コ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」ワケ
  • 3
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 4
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 7
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 8
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 9
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 10
    【クイズ】アメリカを貿易赤字にしている国...1位は…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中