最新記事

香港デモ

香港は最後の砦――「世界二制度」への危機

2019年7月31日(水)19時07分
遠藤誉(中国問題グローバル研究所所長)

世界の二極化だけならまだしも、極端なことを言えば、中国が頂点に立ち、制度だけが異なる「世界二制度時代」が来る危険性は否定できない。それだけは何としても避けなければならないのである。

この時に、まだ「民主」が残っている香港が、完全に一党支配体制の管轄下に入ってしまったら、わずかに残っている「一党支配に抵抗する民主の砦」は消滅する。

そして台湾が吸収され、中国は第一列島線を占拠して日本に迫ってくるだろう。

中国(北京政府)は、今年が中華人民共和国70周年であることから、香港と台湾を一気に中国側に引き寄せたい。だから今年元旦の「台湾同胞に告ぐ」スピーチの中で、習近平はこれまでの台湾との「92コンセンサス」から台湾に対しても「一国二制度」を実施する方向に持っていくと宣言し、香港の「民主主義のために戦う人士」を早いとこ大陸の監獄に閉じ込めるべく、「逃亡犯条例改正案(犯人引き渡し条例)」を通させようとしたのである。それが今も続いている香港デモの原因だ。

だというのに今、日本は何をしているのか。

小国(韓国)を叩くのには「毅然」として(韓国を叩くことはいいことであるにせよ)、大国・中国には媚びへつらっているではないか。「奴隷根性」と誹られても仕方がないだろう。

「習近平さまさま」が「国賓として訪日して下さる!」

そのことを、まるで宝物のように、そして外交勝利のように自慢している内閣がどこかにいる。

1992年に天皇陛下訪中を可能ならしめて、今日の中国の繁栄をもたらした国は日本だ(参照:「日ロ交渉:日本の対ロ対中外交敗北(1992)はもう取り返せない」。このページにある最後のグラフをご覧いただきたい)。

次は、言論弾圧をする強権国家・中国が、アメリカを超える日をもたらしめたいとでもいうのか。

このたびの香港市民の抗議運動に関して多くの西側諸国から中国に対する抗議声明が出されている中、日本は何をしたのか。

香港大学の民意調査が示すように、日本の内閣にとっては経済界の意向が重要なのだ。そこには票田がある。

実に情けない。

それに比べて香港の若者たちはなんと勇気があり、なんと輝いていることか!

香港の若者よ、頑張れ!

香港市民よ、弾圧に屈するな!

あなたたちは民主の砦だ。世界の希望だ。

日本の片隅からエールを送りたい。


(なお、本コラムは中国問題グローバル研究所のウェブサイトから転載した。)

endo2025.jpg[執筆者]遠藤 誉
中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士
1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。中国問題グローバル研究所所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。著書に『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』、『卡子(チャーズ) 中国建国の残火』、『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』、『チャイナ・ジャッジ 毛沢東になれなかった男』、『中国動漫新人類 日本のアニメと漫画が中国を動かす』『中国がシリコンバレーとつながるとき』など多数。

この筆者の記事一覧はこちら≫

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

イスラエル、ハマスが人質リスト公開するまで停戦開始

ワールド

韓国尹大統領に逮捕状発付、現職初 支持者らが裁判所

ワールド

アングル:もう賄賂は払わない、アサド政権崩壊で夢と

ワールド

アングル:政治的権利に目覚めるアフリカの若者、デジ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 3
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさかの密航者」をCAが撮影...追い出すまでの攻防にSNS爆笑
  • 4
    感染症に強い食事法とは?...食物繊維と腸の関係が明…
  • 5
    女性クリエイター「1日に100人と寝る」チャレンジが…
  • 6
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 7
    失礼すぎる!「1人ディズニー」を楽しむ男性に、女性…
  • 8
    フランス、ドイツ、韓国、イギリス......世界の政治…
  • 9
    本当に残念...『イカゲーム』シーズン2に「出てこな…
  • 10
    オレンジの閃光が夜空一面を照らす瞬間...ロシア西部…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 5
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 6
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 7
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 8
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 9
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 10
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 7
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 10
    「腹の底から笑った!」ママの「アダルト」なクリス…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中