最新記事

日韓関係

「韓国に致命的な結果もたらす」日韓の安保対立でアメリカから警告

2019年7月23日(火)15時50分
高英起(デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト) ※デイリーNKジャパンより転載

17年11月に訪韓して文在寅大統領と共同会見に臨んだトランプ大統領 Jung Yeon-Je-REUTERS

<日韓関係の悪化で韓国政府は軍事情報に関する協定見直しも示唆しているが、これに対してはすかさずアメリカから制止が入った>

訪日したボルトン米大統領補佐官は22日、首相官邸で谷内正太郎国家安全保障局長と会談。ホルムズ海峡を航行するタンカーの安全確保に向けた米国の有志連合構想や韓国への半導体関連材料の輸出規制、徴用工問題についても意見を交わしたようもようだ。

ボルトン氏は、23日には韓国を訪問することになっており、韓国政府には米国が日韓対立の仲裁に動いてくれるのを期待する空気が強い。しかし果たして、そのような展開になるだろうか。

韓国青瓦台(大統領府)は18日、日本政府による輸出規制措置を受けて、日韓の軍事情報包括保護協定(GSOMIA)の見直すこともあり得ると示唆した。すると、米国務省がすかさずけん制のコメントを出している。

参考記事:それは止めとけ...文在寅政権の「対日カード」に米国がストップ

この「見直し」示唆については、米国の安全保障専門家からも強い懸念の声が出ている。外交問題評議会(CFR)シニア・フェローのスコット・スナイダー氏は米政府系のボイス・オブ・アメリカ(VOA)に対し、「(韓国は)米国の仲裁を引き出すために(GSOMIA)をテコとして活用している側面があるが、これは(米国との)同盟の精神に反する行動だ」と語っている。

同氏はまた、「米国はGSOMIAが交渉のカードに使われることなど想定していない」としながら、「GSOMIAは韓国と日本の2国間関係だけでなく、米国を含む3者の協力とも密接に関係しているだけに、これ解体しようとする行動は、韓国に致命的な結果をもたらす」と指摘している。

韓国の文在寅政権との「ズレ」は今に始まったことではない。

参考記事:「何故あんなことを言うのか」文在寅発言に米高官が不快感

しかし、今回は米国自身の安全保障にも関わることだけに、反応がシビアに出ている可能性がある。実際のところ、すでに日韓の葛藤は安全保障面にも及んでいる。

だが、いずれの国の安全保障政策も、米国との同盟関係を前提に設計されており、GSOMIAもまた例外ではない。

視点を変えて言えば、米国の東アジアでの安保戦略はいずれも重要な同盟国である日韓との連携、また日米韓3国の連携を前提に練られていると言える。それを考えずにGSOMIAの見直しに言及し、それでいながら米国の仲裁に期待するというのは、文在寅政権の「外交下手」が如実に表れた例とも言える。

そもそもボルトン氏が持ってきた「本題」は、対イランでの有志連合への参加要請なのではないか。他人に頼み事をするときは当然、「見返り」についても考えておかねばならない。

米国の仲裁に期待したせいで、中東で高い代償を払わされることにならなければ良いのだが。

[筆者]
高英起(デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト)
北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。関西大学経済学部卒業。98年から99年まで中国吉林省延辺大学に留学し、北朝鮮難民「脱北者」の現状や、北朝鮮内部情報を発信するが、北朝鮮当局の逆鱗に触れ、二度の指名手配を受ける。雑誌、週刊誌への執筆、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記―』(新潮社)、『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』(宝島社)、『北朝鮮ポップスの世界』(共著、花伝社)など。近著に『脱北者が明かす北朝鮮』(宝島社)。

※当記事は「デイリーNKジャパン」からの転載記事です。

dailynklogo150.jpg



20241119issue_cover150.png
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2024年11月19日号(11月12日発売)は「またトラ」特集。なぜドナルド・トランプは圧勝で再選したのか。世界と経済と戦争をどう変えるのか。[PLUS]大谷翔平 ドジャース優勝への軌跡

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら



今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ロシア、ウクライナに大規模攻撃か ポーランド軍が緊

ワールド

習主席、歴史・台湾問題に適切な対応要請 石破首相と

ワールド

習主席、バイデン氏と会談 トランプ次期政権と協力す

ワールド

日韓首脳、米新政権と3カ国協力継続で一致=韓国大統
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:またトラ
特集:またトラ
2024年11月19日号(11/12発売)

なぜドナルド・トランプは圧勝で再選したのか。世界と経済と戦争をどう変えるのか

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 3
    メーガン妃が「輝きを失った瞬間」が話題に...その時まさに「対立」が表面化していた
  • 4
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 5
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 6
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 7
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 8
    普通の「おつまみ」で認知症リスクが低下する可能性…
  • 9
    クリミアでロシア黒海艦隊の司令官が「爆殺」、運転…
  • 10
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 1
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 2
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 3
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国」...写真を発見した孫が「衝撃を受けた」理由とは?
  • 4
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
  • 5
    建物に突き刺さり大爆発...「ロシア軍の自爆型ドロー…
  • 6
    本当に「怠慢」のせい? ヤンキース・コールがベース…
  • 7
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 8
    中国富裕層の日本移住が増える訳......日本の医療制…
  • 9
    NewJeansのミン・ヒジン激怒 「似ている」グループは企…
  • 10
    海上自衛隊のヘリコプター搭載護衛艦「空母化」、米…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    秋の夜長に...「紫金山・アトラス彗星」が8万年ぶり…
  • 5
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 6
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 7
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 8
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 9
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
  • 10
    予算オーバー、目的地に届かず中断...イギリス高速鉄…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中