シリアの核施設を空爆で破壊せよ
Taking Out Syria’s Nuclear Potential
土のサンプルをラボで調べると、結果は陽性だった。これにより、この施設が間違いなく原子炉だと分かった。しかも、稼働開始が近づいていた。攻撃して破壊するなら、早期に実行する必要があった。
隠密に実行された作戦
サンプル採取を行った数日後、オルメルトはヤドリンをイギリスに派遣した。同盟国に報告しておきたいと考えたのだ(米政府は既に、シリア空爆を実施しない意向をイスラエル側に伝えていた)。オルメルトは英首相のゴードン・ブラウンに電話し、対外諜報機関であるMI6(英国情報部国外部門)の長官ジョン・スカーレットとヤドリンの面会を求めた。
このときイスラエルが提供した情報は、イギリス側が全く想定していないものだった。スカーレットは直ちに、それを「容認し難い状況」と位置付けた。
MI6は、アラブ諸国に深く浸透していることで知られている。スカーレット自身もシリアのバシャル・アサド大統領と会ったことがあり、彼のことはよく分かっているつもりだった。ところが、アサドが核兵器の開発を進めているという情報を全くつかめていなかった。英政府は、それが中東地域の、ひいては世界の安定に及ぼす影響について強い懸念を抱いた。
「君たちのミッションは、シリアの原子炉を爆撃することだ」。07年9月5日、イスラエル空軍参謀長のエリエゼル・シュケディは、パイロットたちにそう述べた。彼らは顔を見合わせた。「イスラエルの人々と国家の安全を守るために極めて重要なことだ」と、シュケディは説明した。パイロットの1人は「驚いたけれど、考えている時間はなかった」と振り返っている。
この作戦には、3つの目標があった。原子炉を破壊すること。1機も失わずに帰還すること。そして、できるだけ静かに、誰にも知られずにミッションを完了させることだ。この点は「ソフト・メロディー作戦」という作戦名にも表れていた。シュケディは隊員の一人一人と握手し、「君たちを信じている」と激励した。
任務に出発した8機の戦闘機は、レーダーに捕捉されずにシリア領空に侵入するために地上60メートルの超低空飛行を続け、パイロットと乗務員はひとことも言葉を発しないようにした。
シリア側は戦闘機を目にすることさえなかった。戦闘機は午前0時すぎに標的上空に達して編隊を解き、一旦高度を上げてから次々に原子炉目がけて急降下した。
数秒で各機2発ずつ爆弾を投下。爆弾は原子炉の屋根や壁を直撃し、その様子は全てカメラに収められた。連続して大爆発が起き、まず屋根が、続いて壁が崩落した。原子炉は修復不可能なまでに破壊された。
戦闘機は2分弱で標的上空を離れて作戦のチーフパイロットに無事を報告、チーフパイロットがテルアビブに無線で報告した。「アリゾナ」。ミッション完了という意味だ。