中国船のフィリピン漁船当て逃げに弱腰対応のドゥテルテ 国内から総ブーイング
ドゥテルテ大統領の意外な弱腰反応にも憤懣
事態の推移を見守っていたかのように当初姿勢を明確にしてこなかったドゥテルテ大統領は17日に今回の「当て逃げ事件」に言及。「小さな海上での事故」と表現し「事故原因の調査結果も出ていないのでこれ以上の声明はない」と発言したにとどまった。
中国側も同日、外務省が「フィリピ漁民に対するお見舞を申し上げる」としながらも陸慷・報道局長が「今回の事案を中国・フィリピン両国の友好関係に水を差す動きにしようとすることは無責任で非建設的である」と会見で発言した。
このような「当て逃げ」の非を絶対に認めようとしない中国側の「海上事故」との認識にドゥテルテ大統領も「迎合」した形となり、これがまたフィリピン国民の怒りを招いている。
6月18日にはこうした中国側に配慮したとみられるドゥテルテ大統領の姿勢にフィリピンメディアは「弱腰外交だ」「フィリピン人漁船員すら怒る対中配慮」などと一斉に反発しており、不満を抱いた市民らがマニラ市内でデモ行進した。
デモ参加者は「中国はフィリピンへの攻勢をストップしろ」「フィリピンの海域から中国は出ていけ」などと書かれたバナーを掲げ、中国国旗を燃やして抗議した。
漁船船長も大統領に反発
ベトナム船に救助された22人のフィリピン漁民は帰国後、地元メディアに対し「中国の船が向こうからぶつかってきた。そしてその後すぐに逃げたという事実をフィリピン政府は知るべきだ」と発言。ドゥテルテ大統領の「小さな海上での事故」との認識に強く反発している。
フィリピン政府は6月22、23日にタイのバンコクで開催予定の東南アジア諸国連合(ASEAN)首脳会議で南シナ海問題を協議するとしているが、ドゥテルテ大統領の弱腰の対中外交姿勢から突っ込んだ議論にまでは発展せず、満場一致というASEANの原則からも中国に対して厳しい姿勢を示すような展開にはならないものとの見方が有力だ。
[執筆者]
大塚智彦(ジャーナリスト)
PanAsiaNews所属 1957年東京生まれ。国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞社入社、長野支局、東京外信部防衛庁担当などを経てジャカルタ支局長。2000年産経新聞社入社、シンガポール支局長、社会部防衛省担当などを歴任。2014年からPan Asia News所属のフリーランス記者として東南アジアをフィールドに取材活動を続ける。著書に「アジアの中の自衛隊」(東洋経済新報社)、「民主国家への道、ジャカルタ報道2000日」(小学館)など
※6月25日号(6月18日発売)は「弾圧中国の限界」特集。ウイグルから香港、そして台湾へ――。強権政治を拡大し続ける共産党の落とし穴とは何か。香港デモと中国の限界に迫る。