最新記事

台湾

反エリートの星「台湾のドゥテルテ」が政界を席巻する

Taiwan Confounded by Populist Mayor

2019年6月14日(金)15時30分
ニック・アスピンウォール

一大ブームを巻き起こしている韓(中央)は台湾独自のポピュリスト政治家 Tyrrone Siu-REUTERS

<事実上の立候補表明をした国民党の韓国瑜は「台湾のドゥテルテ」――アンチ台北の意識が有権者のハートをつかむ>

地方都市の首長が口当たりのいい公約をばらまいて人気を集め、民主的な選挙を制して一国の指導者となる。3年前のフィリピンで起きたことだが、半年後には台湾で同じことが起きるかもしれない。

台湾の最大野党・国民党の韓国瑜(ハン・クオユィ)は南部の最大都市・高雄の市長。去る6月1日に台北で開いた集会で、来年1月の総統選への出馬を事実上宣言した。

韓は昨年12月に、高雄市長に選出されたばかりだ。典型的なポピュリスト政治家で、宣伝上手。メディアへの露出は、良くも悪くも圧倒的に多い。

市長としての実績はないに等しい。政策論争は苦手だ。一方で不倫疑惑など、私生活をめぐるスキャンダルが相次ぎ、それを報じたメディアを法廷に訴えたりもしている。

この調子なら、いずれ自分で墓穴を掘るに決まっているとみる向きもある。早くも一部のメディアは、この数週間で韓の勢いが衰えてきたと報じている。しかし1日の集会を見る限り、それは希望的観測にすぎない。

この「韓旋風」がどこまで続くかは予測し難い。アメリカでもブラジルでも、イタリアでもフィリピンでも、ソーシャルメディアを巧みに操る新世代ポピュリスト政治家の躍進と成功を的確に予想できた専門家はほとんどいない。

ポピュリスト政治家の常として、韓は自分に任せれば何でも解決してみせると豪語し、支持者にそう信じ込ませる。低迷する台湾経済も「歩く景気刺激策」の自分なら立て直せると、およそ具体的な政策を示さずに触れ回っている。

一方で恐怖も振りまく。大陸との関係強化には前向きで、この点は台湾の自由と民主主義を守りたい与党・民主進歩党(民進党)の支持者を震え上がらせる。また徹底したリアリストだが演説下手の現職・蔡英文(ツァイ・インウェン)総統と違って、韓は聴衆をおだてるのも脅すのもお手のものだ。

そうした演説で韓は、何でも反対のネガティブな主張はやめて、相手を受け入れて繁栄を手に入れようと説く。ただし同性愛者の受け入れには慎重なようだ。1日の集会にも同性婚の合法化に反対する活動家の集団が参加し、盛大な拍手で迎えられていた(韓自身は同性婚への賛否を明確にしていない)。

失脚させる材料がない

韓の支持層は移民にも強く反発する。台湾では昔から、東南アジアから来た人々に対する差別意識が強い。今の台湾には東南アジア出身の移民労働者が70万人ほどいるが、彼らも日常的な差別に直面している。3月には韓自身もフィリピン人労働者を蔑視するような発言をし、火消しに追われる事態となった。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

独メルセデス、安価モデルの米市場撤退検討との報道を

ワールド

タイ、米関税で最大80億ドルの損失も=政府高官

ビジネス

午前の東京株式市場は小幅続伸、トランプ関税警戒し不

ワールド

ウィスコンシン州判事選、リベラル派が勝利 トランプ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 2
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2人無事帰還
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 5
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 6
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 7
    「隠れたブラックホール」を見つける新手法、天文学…
  • 8
    【クイズ】アメリカの若者が「人生に求めるもの」ラ…
  • 9
    イラン領空近くで飛行を繰り返す米爆撃機...迫り来る…
  • 10
    あまりにも似てる...『インディ・ジョーンズ』の舞台…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「最大の戦果」...巡航ミサイル96発を破壊
  • 3
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥーが解明される...「現代技術では不可能」
  • 4
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 5
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 6
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 7
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中