最新記事

恐怖政治

北朝鮮、300カ所以上で公開処刑を実施か......子供に「見学」強制も

2019年6月12日(水)10時40分
高英起(デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト) ※NKNewsより転載

恐怖で統治する手法は金正恩体制になってからも変わっていない KCNA-REUTERS

北朝鮮の人権問題を追及している民間団体が11日、北朝鮮国内で公開処刑が行われた場所、死亡者の遺体が集団埋葬された推定地、遺体の火葬場所などを示したマップを制作し、報告書を発表した。

韓国・ソウルに本部を置く「転換期正義ワーキンググループ(Transitional Justice Working Group=TJWG)」は、北朝鮮の政権が行っている人権侵害を記録することで、そのような行為をやめるよう警告すると同時に、将来的な加害者の法的処罰の可能性を高める目的で、このプロジェクトを進めてきた。報告書の発表は、2017年7月に続き2回目。

TJWGは過去4年間に610人の脱北者のインタビューを行い、その中でも信頼度が高く位置座標まで具体的に確保可能な情報を選んで323件を抽出した。調査の過程では、北朝鮮当局が処刑される人の10歳に満たない子どもに処刑を見せたなどとする、残忍な実態についての証言も出てきたという。

参考記事:機関銃でズタズタに...金正日氏に「口封じ」で殺された美人女優の悲劇

TJWGが探し当てた公開処刑の場所は、咸鏡北道(ハムギョンブクト)に200カ所、両江道(リャンガンド)に67カ所、平安南道(ピョンアンナムド)に20カ所、咸鏡南道(ハムギョンナムド)に11カ所、黄海北道(ファンヘブクド)に6カ所、慈江道(チャガンド)に5カ所、江原道(カンウォンド)に5カ所、平壌(ピョンヤン)に4カ所、平安北道(ピョンアンブクド)に4カ所、黄海南道(ファンヘナムド)に1カ所となっている。

ただ、中国との国境に近い北朝鮮北部出身の脱北者が圧倒的多数を占め、黄海南・北道など南部の出身者が少数にとどまることを考えると、公開処刑が行われた場所はこれより遥かに多い可能性もある。

なお同グループは、人権侵害が行われた具体的な場所は公表しておらず、今後もその予定はないとしている。現状では、客観的な現地調査が不可能であり、そのような状況で具体的場所を公表すると、北朝鮮当局が証拠隠滅を行う可能性が高いからだ。

北朝鮮は、1990年代の未曾有の食糧難「苦難の行軍」で、それまで国を支えてきた配給システムが崩壊し、国が乱れ、治安が極度に悪化した。その危機を脱する手段として、金正日総書記は公開処刑を多用した。人びとに恐怖心を植え付けることで、混乱を抑え込もうとしたのだ。

参考記事:「死刑囚は体が半分なくなった」北朝鮮、公開処刑の生々しい実態

その後、金正恩党委員長が後継者として登場してからも状況は変わっていない。

高級幹部や体制の意に沿わない行いをした芸術家らが、金正日時代にも増して残忍な方法で処刑されている。

※当記事は「NKNews」からの転載記事です。

[筆者]
高英起(デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト)
北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。関西大学経済学部卒業。98年から99年まで中国吉林省延辺大学に留学し、北朝鮮難民「脱北者」の現状や、北朝鮮内部情報を発信するが、北朝鮮当局の逆鱗に触れ、二度の指名手配を受ける。雑誌、週刊誌への執筆、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記―』(新潮社)、『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』(宝島社)、『北朝鮮ポップスの世界』(共著、花伝社)など。近著に『脱北者が明かす北朝鮮』(宝島社)。

dailynklogo150.jpg



今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

ルペン氏に有罪判決、次期大統領選への出馬困難に 仏

ビジネス

金、3100ドルの大台突破 四半期上昇幅は86年以

ビジネス

NY外為市場・午前=円が対ドルで上昇、相互関税発表

ビジネス

ヘッジファンド、米関税懸念でハイテク株に売り=ゴー
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 2
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者が警鐘【最新研究】
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 5
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 6
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 7
    3500年前の粘土板の「くさび形文字」を解読...「意外…
  • 8
    メーガン妃のパスタ料理が賛否両論...「イタリアのお…
  • 9
    なぜ「猛毒の魚」を大量に...アメリカ先住民がトゲの…
  • 10
    「関税ショック」で米経済にスタグフレーションの兆…
  • 1
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き詰った「時代遅れ企業」の行く末は?【アニメで解説】
  • 2
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 3
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 4
    【独占】テスラ株急落で大口投資家が本誌に激白「取…
  • 5
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 6
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 7
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】アメリカを貿易赤字にしている国...1位は…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中