徴用工問題で日韓が近づく危険な限界点
Nearing the Point of No Return
戦時中の個人賠償をめぐっては、いわゆる従軍慰安婦の問題も日韓関係をむしばみ続けている。両国政府は15年、慰安婦問題を「最終的かつ不可逆的に解決する」とする日韓合意を結んだ。ところが、このとき大統領だった朴・槿恵(パク・クネ)が弾劾されて、文政権が誕生すると、たちまち慰安婦問題が息を吹き返した。
かねてから日韓合意に批判的だった文は、日本政府が拠出した10億円の基金を元慰安婦や遺族に支払う財団を解散させると発表した。つまり、消極的にでも日韓合意を維持しながら新たな解決策を探るのではなく、合意の枠組みそのものを解体してしまったのだ(本人はそんなことはないと言い張っている)。
歴史問題をめぐるいざこざのタネは、歴史教科書の記載からリアンクール岩礁(日本名・竹島、韓国名・独島)の領有権、さらには韓国ポップスターの原爆Tシャツまで、ほとんどエンドレスに出てくるように見える。険悪なムードが支配的になるなか、日韓政府の対話はストップしてしまった。
18年2月に安倍晋三首相が平昌冬季五輪開会式に出席するために韓国を訪問し、同年5月に文が日中韓首脳会談のために初訪日するなど、安倍・文の信頼醸成を期待する見方も一時はあったが、そうした楽観論は完全に吹き飛ばされた。歴史問題をめぐる不信感の高まりが両国関係の決定的な要因になるなか、両国政府は正反対の方向に向かって歩んでいる。
だが、日韓関係を安定化させることは両国のためだけでなく、アメリカにとっても著しく重要だ。北朝鮮の挑発行為を抑止する上で、日本と韓国はアメリカにとって不可欠な同盟国であり中国の戦略的挑戦に対処する上でもアメリカは長年、日韓の協力強化を希望してきた。
最悪のシナリオを避けろ
残念ながら、現在の米政府には日本と韓国の関係をとりなす意欲はほとんどない。米トランプ政権は、日本と韓国それぞれと個別に関係を構築するアプローチを好んでおり、北朝鮮とその核開発計画への対応でも日米韓の3カ国が協力する重要性を小さく見ている。
日韓関係を修復する簡単な方法はないだろう。しかし今は試さなければならないときだ。
日本政府が徴用工賠償判決を懸念するのはもっともなことであり、文政権はその懸念にきちんと対応するべきだ。韓国にある日本企業の資産や債権が強制的に売却されるのは最悪のシナリオであり、両国関係を修復不可能な領域に進ませる恐れがある。文は大統領として思い切った宣言を発表して、この破滅的なシナリオが現実になる可能性の芽を摘み取るべきだ。
そのような宣言は、裁判所の判決を尊重しつつ、現実的な問題解決に寄与する独創的な方法をもたらすだろう。例えば鉄鋼大手のポスコなど、日韓請求権協定に基づき、日本政府から賠償金を受け取っている韓国企業に賠償の一部を負担させる方法もあるだろう。一方、日本企業は訴えを起こした元徴用工に対して、法的な賠償金ではなく、あくまで自発的な支援金を支払うなど、象徴的な誠意を示すことができる。