鍵を握るのは日本か――世界両極化
トランプ大統領がこのようなことを認めるわけがないから、これでは米中協議は[all or nothing]に陥ってしまう。すなわち、「追加関税全廃か」あるいは「中国からの輸入品全てに25%(あるいはそれ以上の)関税をかけるか」のどちらかになってしまうということだ。
劉鶴という、あの寡黙で慎重な人物がここまで公表してしまうということは、よほどの覚悟だ。当然、習近平国家主席とも相談の上だろう。したがって「追加関税全廃」を中国は譲らない腹積もりであることを窺わせる。
トランプ大統領は、もっと譲らないだろう。これまで、こんなに強気で攻撃してきた後に譲歩などしたら、次期大統領選にダメージを受けるだろう。
日本はどうする?
もし米国が総額5000億ドル以上に上る中国からの全輸入品に追加関税25%を課すことになると、米中貿易摩擦は長期化するだけでなく、絶望的な決裂になる。トランプ大統領のことだから、1秒後には何を言うか分からないので、不確定要素が大きすぎるが、しかし既に一部の日本企業が生産拠点を中国以外に移す動きを見せ始めているという報道が流れている。
これは良いことだ。
生産拠点を中国に置いていれば「メイド・イン・チャイナ」になり、対米輸出をしようと思えば全てに25%の関税がかかることになるので、まるで日本経済が制裁を受けているようなことになり、採算が合わない。
この現象が世界各国に及べば中国経済はさすがに持たないだろうが、ここで立ち止まって熟考してみる必要がある。
5月10日付のコラム<トランプ「25%」表明に対する中国の反応と決定に対する中国の今後の動向>をもう一度ご覧いただきたい。
そのコラムの「◆中国の貿易データが示す今後の動向:新興市場と戦略的新興産業」という項目の中の「1.新興市場に関して」で、EU諸国やASEAN諸国だけでなく、「一帯一路」沿線国との貿易額の大きさを中国が重要視していることを書いた。そして、これらを強調する目的は、「中国は何もアメリカ一国だけと貿易をしているわけではないので、アメリカが脅しを掛けてきても、痛くも痒くもない」ということを言いたいのだと判断される、とも書いた。
読者の中には「遠藤は親中だから」と、いつも反中反共と批判されている筆者にとっては「ありがたい」感想をお持ちになった方もおられたようだが、実はこれに関して日本の経済産業省が素晴らしいデータをまとめているのを知った。
以下に示すのは2018年4月の時点で、経済産業省がIMFデータを基に作成した 「中国と米国、EU、一帯一路関係国との貿易額比較」だ。
このグラフを見れば一目瞭然。
万一にもアメリカとの貿易が完全に無くなったとしても、EUと一帯一路関係諸国が残っただけでも、中国経済は成立することが窺われる。1年前でさえこうなのだから、現時点では「対一帯一路貿易額」はもっと大きくなっているだろう。内需として14億の国民がいるので、それも無視できない。
ということは、中国の未来、あるいは世界の未来には二つの可能性が待ち構えていることになる。