最新記事

日本外交

日本のイメージを世界で改善している「パブリック・ディプロマシー」とは

2019年5月10日(金)17時00分
桒原 響子(未来工学研究所研究員)*東洋経済オンラインからの転載

世界的に日本のプレゼンスが増しているのには、それなりの事情がある(写真:Franck Robichon/Pool via Reuters)

「広報」「PR(パブリック・リレーションズ)」「宣伝」、そして、「プロパガンダ」。これらの意味をそれぞれ説明できるだろうか? 広報とPRを同一とする人もいるだろう。また、宣伝とはもともと、政治宣伝を意味するプロパガンダ(propaganda)の訳語として生まれたものでもある。しかし、それぞれに微妙なニュアンスの差があるのだ。

広報とは、広く(=社会に対して)報じる(=知らせる)という意味であり、組織などが社会に対して情報発信することである。一方、PRとは、組織などが大衆に対してイメージや事業について伝播したり理解を得たりする活動を指す。宣伝は、最近では商業宣伝を意味することが多い。そして、プロパガンダとは、国家などが個人や集団に働きかけることで政治的主義・主張を宣伝し、意図する方向へ世論を誘導・操作する行為を指す。

相手国の世論に直接働きかける

ニュアンスが少しずつ違うとはいえ、これらはすべて、社会に働きかけ、あるイメージを与え、世論に何らかの影響を与える行為を意味するという点に鑑みれば、すべて表裏一体である。

とりわけ、プロパガンダについては、「世論戦」や「情報戦」ともいわれ、冷戦などのイメージが強く、今の時代にそぐわないと時代遅れだと捉える人も多いだろう。だが、プロパガンダは決して時代遅れなどではない。

むしろ、世界では、従来の政府対政府の外交ではなく、相手国の世論に直接働きかけ、まずは世論を味方につける、という外交戦略が当たり前の時代になっている。アメリカを始め、イギリス、フランス、そして中国を中心に、巨額の国家予算を投じて、海外の世論作りに励んでいる。

そして日本も、第二次安倍政権の下、こうした、イメージを発信するという外交の流れに遅ればせながら参入し、ここ数年の間、毎年約800億円規模という巨額の資金を投じ始めた。従来の対外発信予算に比較すれば、4倍近くの伸びである。

政府が海外の世論に直接働きかけ、海外の世論を自国の味方につける。こうした外交手法を、「パブリック・ディプロマシー(PD)」という。政策広報、文化、人的交流などのソフト・パワーを用いて、世論に直接働きかけることで、自国の外交および国益に資する活動を意味する。日本では、外務省が中枢的役割を担っており、「広報文化外交」といわれている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、米軍制服組トップ解任 指導部の大規模刷

ワールド

アングル:性的少数者がおびえるドイツ議会選、極右台

ワールド

アングル:高評価なのに「仕事できない」と解雇、米D

ビジネス

米国株式市場=3指数大幅下落、さえない経済指標で売
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 4
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 5
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 6
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 7
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 8
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 9
    メーガン妃が「アイデンティティ危機」に直面...「必…
  • 10
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ...犠牲者急増で、増援部隊が到着予定と発言
  • 4
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    墜落して爆発、巨大な炎と黒煙が立ち上る衝撃シーン.…
  • 9
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 10
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 10
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中