最新記事

環境問題

欧米、日本、アジアからもプラゴミ  マレーシア、世界のゴミ捨て場返上へ

2019年4月28日(日)16時17分
大塚智彦(PanAsiaNews)

newsweek_20190428_160127.jpg

「再生不可能なプラスチックゴミなどの産業廃棄物が違法に入ってきている」と偽装輸入されたコンテナの前で語るエネルギー・科学・技術・環境・気候変動省のヨー・ビー・イン大臣 The Star Online / YouTube.

日本もマレーシアへ違法にプラゴミ輸出

国際的環境保護団体の「グリーン・ピース」による調査では、マレーシアへのプラゴミなどの輸出国として欧米のほかに日本や香港、フィリピン、シンガポールなどアジア各国やサウジアラビア、アルゼンチン、ニュージランドやオーストラリアも含まれていることがわかった。

2018年10月に公表された「グリーン・ピース」の調査報告書「リサイクルという神話」によると、2018年1−7月までの6カ月間の期間に確認されたマレーシアのプラゴミ輸入は75万4000トン。輸出元の内訳は、米が31.20%、次いで日本が16.75%、イギリス15.21%、ドイツ11.58%、そして香港、オーストラリア、ベルギー、スペインなどが続いている。

同報告書では日本からのものも含め「再生不可能な違法プラゴミが含まれている」と報告書は指摘しているが、実際にどの程度含まれているかは明らかではないという。

一般に輸出入の許可申請に関わる書類では、HSコードと呼ばれる輸出品目分類が使われ、再生不可能なプラゴミなどは「3915」に分類されなければならない。ところが実際は大半が「再生可能な資源プラゴミ」つまりプラスチックの破片、膜状あるいはシート状のプラスチックなどである「3920」に分類されて書類が作成されていることが多いからだという。「3920」の品目は特別な許可や調査が不要なため悪用されるケースが多い、とヨー大臣は指摘した。

このためすべての輸入コンテナを調査する手間を省き、集中的な抜き打ち調査をしたところ、今回の発見に至ったということのようだ。

国際社会の協力が不可欠

2017年12月にそれまで資源として世界からプラゴミを受け入れていた中国が輸出入を全面的に禁止した。これを受けて再生不可能なゴミを含めたプラゴミがタイ、フィリピンそしてマレーシアなどの東南アジアに集中する傾向が世界的に顕著になった。

このため2018年にはタイが輸入禁止を決定、マレーシアも2018年10月には再生不可能なプラゴミ、産廃の輸入を基本的に禁止する措置をとった。

しかし実際には申請書類の偽造などで違法な輸入が特にフィリピン、マレーシアでは続いているのが現状という。

マレーシア国内には違法なプラゴミや産廃を処理する「違法」処理施設も実際には多く存在しているとされ、ヨー大臣は今後早急にこうした国内の違法処理施設、業者の摘発にも乗り出す姿勢を示している。

ヨー大臣はさらに会見で「国際的なプラゴミや産廃の違法輸出を阻止するには国際社会の協力が不可欠だ」との考えを強調した上で「マレーシアは世界のゴミ捨て場ではない、輸入された不法なプラゴミなどは全て輸出国に送り返す」と厳しい姿勢を示した。

今回のマレーシアの例は、不法なプラゴミ輸出入問題は今や東南アジアだけではなく、欧米なども巻き込んだ世界的な環境問題、資源問題となっていること、そして日本がその問題を起こしている当事者であることを改めて浮き彫りにしたといえる。


otsuka-profile.jpg[執筆者]
大塚智彦(ジャーナリスト)
PanAsiaNews所属 1957年東京生まれ。国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞社入社、長野支局、東京外信部防衛庁担当などを経てジャカルタ支局長。2000年産経新聞社入社、シンガポール支局長、社会部防衛省担当などを歴任。2014年からPan Asia News所属のフリーランス記者として東南アジアをフィールドに取材活動を続ける。著書に「アジアの中の自衛隊」(東洋経済新報社)、「民主国家への道、ジャカルタ報道2000日」(小学館)など

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

独メルセデス、安価モデルの米市場撤退検討との報道を

ワールド

タイ、米関税で最大80億ドルの損失も=政府高官

ビジネス

午前の東京株式市場は小幅続伸、トランプ関税警戒し不

ワールド

ウィスコンシン州判事選、リベラル派が勝利 トランプ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 2
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2人無事帰還
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 5
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 6
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 7
    「隠れたブラックホール」を見つける新手法、天文学…
  • 8
    【クイズ】アメリカの若者が「人生に求めるもの」ラ…
  • 9
    イラン領空近くで飛行を繰り返す米爆撃機...迫り来る…
  • 10
    あまりにも似てる...『インディ・ジョーンズ』の舞台…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「最大の戦果」...巡航ミサイル96発を破壊
  • 3
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥーが解明される...「現代技術では不可能」
  • 4
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 5
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 6
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 7
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中