最新記事

メディア

「心の専門家」に、ピエール瀧氏を「分析」させるメディアの罪

2019年4月19日(金)15時55分
荻上チキ(評論家)、高 史明(社会心理学者)

ピエール瀧氏の「深層心理」を読み解く?

この論争は対岸の火事だろうか。精神科医であれその他の職であれ、人間の心理についての専門家は、メディアでの無責任な発言に対して慎重であるべきだ。しかし日本に目をやれば、同じような問題が存在していることに気づくだろう。

容疑段階であるにもかかわらず、「犯行動機」をプロファイリングしてみせる心理学者。政敵を批判する際に、病気のメタファーを用いる精神科医。専門知で把握できる範囲を逸脱して、男と女の違いなどをあまりに単純に「説明」してしまう心理学漫画。日本のメディアにも、問題のある発信は溢れている。

さらに一つ、具体例をあげてみよう。

2019年4月5日に放送された日本テレビのワイドショー「ミヤネ屋」では、薬物使用の疑いで逮捕され、その後釈放されたピエール瀧氏――2019年は「ウルトラの瀧」名義で活動――についての特集を放送していた。その際に同番組は、「臨床心理士」のコメントを紹介しながら、わずか2分間の映像を元に、ピエール瀧氏の「深層心理を読み解く」というコーナーを展開した。以下はその詳細である。


「カメラの前に姿をみせたおよそ2分間、瀧被告は何を思っていたのか。そして、その心理状態は。人間の深層心理を読み解くプロ、臨床心理士の矢幡洋氏は、保釈時の瀧被告について......」

矢幡:場面緊張という言葉がありますけれど、特別な場面になると萎縮したり怖がったりしてしまうというようなことがあります。非常によく知られた現象ですけど、よく知られた現象が、このシーンのなかではまったく見られないんですね。

「矢幡氏が指摘する複数の違和感とは――」

矢幡:謝罪の場のはずが、出て来てまずぐるっと見回す。それからお辞儀をしてまた見回したり、喋る前に左右をみたりとか。つまり全然萎縮していない。上半身がフリーに動いている。さらに一瞬手を後ろに組むなどですね、ちょっと謝罪にはあまり似つかわしくない姿勢も。これほど余裕綽々とした人を私は保釈時、Vで見たことがない。もしかしたらこれ拘留されている二十何日間でいろんなシミュレーションを組み立てて、役者としてやっているのかなという印象も受けます。

「また、矢幡氏は、謝罪の言葉にも違和感があるという」

<このたびは、私ピエール瀧の、反社会的な行為により大変多くの皆様の方にご迷惑とご心配をおかけしてしまいました>

矢幡:反社会的というような、報道ニュースで使うような言い方をしていて、まるで自分でやったことについてではなく、何かの事件についてコメントしているような言い方で終わっているところです。自分がやったことなんだというような、そういう生々しい感情がないのかなという気もいたしました。

「そして、この場面も(お辞儀)」

矢幡:約30秒間、ずっと頭を下げて、最後に関係者が促して、やっと頭をあげると。本当に反省の気持ちがそれだけ強かったというよりも、計算が働いたのかなと思います。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

日中双方と協力可能、バランス取る必要=米国務長官

ビジネス

マスク氏のテスラ巨額報酬復活、デラウェア州最高裁が

ワールド

米、シリアでIS拠点に大規模空爆 米兵士殺害に報復

ワールド

エプスタイン文書公開、クリントン元大統領の写真など
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    懲役10年も覚悟?「中国BL」の裏にある「検閲との戦い」...ドラマ化に漕ぎ着けるための「2つの秘策」とは?
  • 2
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリーズが直面した「思いがけない批判」とは?
  • 3
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 4
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 5
    「何度でも見ちゃう...」ビリー・アイリッシュ、自身…
  • 6
    70%の大学生が「孤独」、問題は高齢者より深刻...物…
  • 7
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 8
    中国最強空母「福建」の台湾海峡通過は、第一列島線…
  • 9
    ロシア、北朝鮮兵への報酬「不払い」疑惑...金正恩が…
  • 10
    ウクライナ軍ドローン、クリミアのロシア空軍基地に…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 5
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 6
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 7
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 8
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 9
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 10
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 7
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 8
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 9
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 10
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中