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働き方

パートタイム労働を差別する日本の特異性

2019年4月3日(水)16時30分
舞田敏彦(教育社会学者)

ところでパートタイムといっても、雇用の形態はさまざまだ。雇用期間のないパーマネントの人もいれば、細切れの有期雇用で働いている人もいる。この点の国際比較をすると、これまた日本の特異性が見えてくる。

中学校のパート教員の無期雇用率を出すと、日本はわずか1.5%だが、ブラジルやメキシコでは6割、オランダでは8割近くにもなる。勤務形態(フルタイムかパートか)と雇用形態(無期雇用か有期雇用か)から、中学校教員の組成を明らかにしてみる。<図2>は、日本とオランダの比較図だ。

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日本ではパート教員はわずかしかおらず、その大半は有期雇用だ。対してオランダでは、教員の半分以上がパートで、その8割近くが無期雇用となっている。パート労働がどう見られているかが、国によって違うようだ。

日本では、パート労働は雇用の調整弁だ。賃金の上でも、フルタイムの正社員と差をつけられている。一方、パート大国のオランダでは同一労働・同一賃金の原則が徹底されている。賃金はあくまで労働時間の関数だ。各種の社会保障から疎外されることもなく、パートもフルタイムと同等の働き方として認められている。仕事を分け合う「ワーク・シェアリング」も進んでいる。

少子高齢化が極限まで進む日本では、ゆるい働き方を認めないと立ち行かなくなる。幸い、AIの台頭によりそれが可能になる見通しも立っている。「働かざる者食うべからず、フルタイム勤務をして一人前」という価値観は払拭されるべきだ。パートタイム労働者を社会保障から外したり、給与で差をつけたりするのは、それが根強いことの表れでもある。生活保護受給者に就労指導が入る際、いきなり8時間以上のフルタイムで働くことを促されるというが、これもおかしなことだ。

20世紀は「フルタイム」の時代だったが、21世紀は「パート」の時代になるだろう。そうでないと社会が回りそうにない。国民の多数が、体力の弱った高齢者になるのだから。この4月から施行される働き方改革推進法では、正規と非正規の差別的取り扱いが禁じられる。働き方改革の核は、働き方の多様化でなければならない。

<資料:OECD「TALIS 2013」

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