最新記事

宇宙

半数以上の宇宙飛行士から再活発化したヘルペスウイルスを検出

2019年3月25日(月)18時35分
松岡由希子

宇宙飛行している間、ストレスホルモンの分泌量が増加する NASA

<国際宇宙ステーション(ISS)での滞在中、潜伏中のヘルペスウイルスが再活性化することがわかった>

宇宙飛行は、私たちが想像する以上に過酷だ。宇宙空間を飛び交う宇宙放射線にさらされながら、閉鎖環境に閉じ込められ、無重力状態で暮らすこととなる。そしてこのほど、宇宙飛行によって潜伏状態のヘルペスウイルスが再活性化する確率が高まることが明らかとなった。

宇宙飛行している間、ストレスホルモンの分泌量が増加

アメリカ航空宇宙局(NASA)ジョンソン宇宙センターらの研究チームは、2019年2月7日、「スペースシャトルや国際宇宙ステーション(ISS)での滞在中、潜伏中のヘルペスウイルスが再活性化することがわかった」との研究結果を学術雑誌「フロンティアーズ・イン・マイクロバイオロジー」で発表した。

研究チームでは、宇宙飛行前、宇宙飛行中、帰還後にそれぞれ採取した宇宙飛行士の唾液、血液、尿の検体を分析した。その結果、10日間から16日間スペースシャトルに滞在した宇宙飛行士89名のうち53%にあたる47名と、最長180日間にわたって国際宇宙ステーションで生活した23名のうち61%にあたる14名の唾液や尿の検体からヘルペスウイルスを検出。ウイルス排出の頻度や量は、健常者のものと比べても明らかに高かった。

研究チームの一員でジョンソン宇宙センターに所属するサティシュ・メータ博士は「宇宙飛行している間、コルチゾールやアドレナリンなど、免疫システムを抑制するストレスホルモンの分泌量が増加する。通常ならばウイルスを抑制したり軽減したりする免疫細胞の働きが、宇宙飛行中から帰還後最長60日程度弱まることがわかった」と述べている。

帰還後最長30日間、体液に排出されていた

研究チームが検出したのは、既知のヘルペスウイルス8種類のうち、口腔ヘルペスや性器ヘルペスの原因となる単純ヘルペスウイルス(HSV)、水疱瘡や帯状疱疹の原因となり、生涯にわたって神経細胞に残存する水痘・帯状疱疹ウイルス(VZV)、伝染性単核球症を引き起こすサイトメガロウイルス(CMV)とエプスタイン・バール・ウイルス(EBV)の4種類だ。これらのウイルス排出は無症候性のものがほとんどで、ウイルスの再活性化によって何らかの症状が出たのは6名のみであった。

しかし、帰還後も継続するウイルス排出によって、免疫機能が低下している人や非感染者に感染させてしまうおそれはある。メータ博士によると「伝染性の水痘・帯状疱疹ウイルス(VZV)とサイトメガロウイルス(CMV)は、国際宇宙ステーションから帰還後最長30日間、体液に排出されていた」とそうだ。

「宇宙飛行においてウイルスの再活性化への予防対策が不可欠だ」

これらの研究結果から、研究チームは「宇宙飛行においてウイルスの再活性化への予防対策が不可欠だ」と説く。理想的な対策はワクチン接種だが、水痘・帯状疱疹ウイルス(VZV)を除き、ワクチン接種の効果が期待できるものはないのが現状だ。研究チームでは、当面、ウイルスの再活性化に伴う症状に合わせた治療法の開発に取り組んでいく方針だという。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

中国への融資終了に具体的措置を、米財務長官がアジア

ビジネス

ベッセント長官、日韓との生産的な貿易協議を歓迎 米

ワールド

アングル:バングラ繊維産業、国内リサイクル能力向上

ワールド

ガザ支援搬入認めるようイスラエル首相に要請=トラン
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは? いずれ中国共産党を脅かす可能性も
  • 3
    トランプ政権の悪評が直撃、各国がアメリカへの渡航勧告を強化
  • 4
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 5
    アメリカ鉄鋼産業の復活へ...鍵はトランプ関税ではな…
  • 6
    関税ショックのベトナムすらアメリカ寄りに...南シナ…
  • 7
    ロケット弾直撃で次々に爆発、ロシア軍ヘリ4機が「破…
  • 8
    ロシア武器庫が爆発、巨大な火の玉が吹き上がる...ロ…
  • 9
    ビザ取消1300人超──アメリカで留学生の「粛清」進む
  • 10
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 3
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 4
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 5
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず…
  • 8
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 9
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 10
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中