全人代「GDP成長率」を読み解く
日本は中国のGDP成長率に異様なほど強い関心を持ち、「ほら低くなった!6.6%など、リーマンショック級の低水準で、中国はもう間もなく亡ぶ!」と大喜びしているが、このグラフから見る限り、少なくとも「GDP成長率」だけで一喜一憂するのは、必ずしも正しくないことを納得していただけただろうか。
読売新聞の一部誤報
筆者は3月5日の日本テレビBS「深層ニュース」に出させていただき、甘利明氏(元経済再生担当大臣)と全人代と米中ハイテク戦争に関して討論したが、番組の中で中国の経済成長率に関して上述の説明を試みた。このとき言いたかったのは「中国のGDP成長率が落ちたからと言って喜んでいるわけにはいかない。真相を見て用心しなければならない」という趣旨のことを述べたはずなのだが、その日の深夜(3/5(火) 23:39配信)の読売新聞は<[深層NEWS]中国の成長率下がっても「警戒する必要ない」>というタイトルで速報を流し、筆者が「中国の成長率が下がるからといってすぐに警戒する必要はない」と述べたと報道している。報道してくださるのは非常にありがたいと感謝しているが、真逆の表現を用いるのは、読者に間違ったシグナルを発信することになるので、好ましくないだろう。筆者は「警戒」という言葉は使っていないが、もし「警戒」という言葉を使うなら、筆者が言いたいのは「警戒する必要はない」ではなく、逆に「警戒しなくてはならない」ということである。この機会に訂正させていただき、誤解を解きたいと思う。
なお、筆者の基本的スタンスは、「言論弾圧をする国が世界を制覇するような事態になってはならない」ということであり、「 日本がその中国の覇権に力を貸すようなことはしてはならない」と主張しているのである。そのために中国の真相を見ようではないかと言っているのだ。
中国、GDPは「量より質」――研究開発に傾注する新常態
2015年の全人代以降、盛んに言われたのは「新常態(ニューノーマル)」である。つまり中国はそれまでのGDPの量的成長を抑え、質の向上に転換していくとした。「量から質への転換」を行なえば、当然、GDPの規模の増加率(GDP成長率)は鈍る。
なぜ「量から質への変換」をする必要があるかというと、それは2015年5月に「中国製造2025」という国家戦略を発布したからだ。これは2025年までに半導体の70%を自給自足にし、宇宙開発においてアメリカを凌駕するというハイテク戦略だが、それを達成するためには研究開発に多くの国家予算を注がなければならない。その分だけ、GDPの量的成長は抑えられる。
中国は今「中進国の罠」に陥っている。そこから抜け出すには民主化するか、ハイテクに重点を置きイノベーションで勝ち抜く以外にない。中国は民主化などは絶対に許さない。中国共産党は一党支配体制を死守することしか考えていない。だから習近平政権は「中国製造2025」に国運を賭けている。トランプ大統領は、それを阻止しようと懸命だ。
米中対立の根幹はこの「中国製造2025」にあり、貿易戦争はあくまでも表面的なもので、根底に流れているのはハイテク戦争である。
詳細は拙著『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』で述べた。
[執筆者]遠藤 誉
1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。東京福祉大学国際交流センター長、筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。著書に『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』(2018年12月22日出版)、『習近平vs.トランプ 世界を制するのは誰か』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』、『卡子(チャーズ) 中国建国の残火』(中英文版も)、『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』、『チャイナ・ジャッジ 毛沢東になれなかった男』、『中国動漫新人類 日本のアニメと漫画が中国を動かす』など多数。
※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。