最新記事

チベット

亡命生活60年となったダライ・ラマ 気がかりな継承者問題と中国「次の一手」

2019年3月19日(火)17時00分

議論の対象に

ダライ・ラマによると、チベット在住のチベット人と亡命中のチベット人の間の接触は増えているが、中国政府と亡命政府側の会談は2010年を最後に行われていない。

だが非公式には、退官した中国政府関係者や、中国政府にコネクションを持つ実業家らが、時々訪ねてくることがあると、彼は明かす。

自分の死後のダライ・ラマの役割については、それを存続させるかどうかも含めて、今年後半にインドで行われるチベット仏教の会議で議論される可能性があると、ダライ・ラマは話した。

また、ブッダの生まれ変わりはいなかったが、それでもその教えは受け継がれている、とも述べた。

「もし(チベット人の)過半数が本当にこの制度を維持したいのならば、継続されるだろう。その上で、生まれ変わりであるダライ・ラマ15世の問題が出てくる」と、ダライ・ラマは説明した。

また、もし継承者が出るにしても、その継承者は「政治的な責任は負わない」とも述べた。ダライ・ラマ自身は2001年に政治的な職務を手放し、インドに住む最大10万人のチベット人向けに民主的な仕組みを作り上げた。

中国の僧院

ダライ・ラマはロイターとのインタビューで、宇宙学や神経生物学、量子物理学や心理学への情熱を熱く語った。

もし故郷訪問を許されることがあれば、こうした学問について中国の大学で講義したいと話す。

だが、中国が共産党の支配下にある間は、帰国が実現することはないと予測する。

「中国は、歴史の古い偉大な国だが、政治体制は全体主義的で、自由がない。従って、私はこの国にいる方を好む」

ダライ・ラマは、現在の中国青海省のチベット高原の端に位置するタクツェル村の農家に生まれた。

ロイターの記者が最近タクツェル村を訪問しようとした際は、自動小銃で武装した警察官が道をふさぎ、警官や10人以上の私服警察官が、村は地域住人以外立ち入り禁止だと話した。

「私たちの力は、真実から来ている。中国の力は、銃から来ている」と、ダライ・ラマは話す。

「短期的には銃の方が決定力を持つが、長期的には真実がより力を持つ」

(Krishna N. Das記者、Sunil Kataria記者)

[ダラムサラ(インド) 18日 ロイター]


トムソンロイター・ジャパン

Copyright (C) 2019トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます

20240521issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2024年5月21日号(5月14日発売)は「インドのヒント」特集。[モディ首相独占取材]矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディの言葉にあり

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米小売売上高4月は前月比横ばい、ガソリン高騰で他支

ワールド

スロバキア首相銃撃され「生命の危機」、犯人拘束 動

ビジネス

米金利、現行水準に「もう少し長く」維持する必要=ミ

ワールド

バイデン・トランプ氏、6月27日にTV討論会で対決
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 2

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史も「韻」を踏む

  • 3

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダブルの「大合唱」

  • 4

    それでもインドは中国に勝てない...国内企業の投資意…

  • 5

    マーク・ザッカーバーグ氏インタビュー「なぜAIを無…

  • 6

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 7

    奇跡の成長に取り残された、韓国「貧困高齢者」の苦悩

  • 8

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 9

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 10

    中国のホテルで「麻酔」を打たれ、体を「ギプスで固…

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋戦争の敗北」を招いた日本社会の大きな弱点とは?

  • 4

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 5

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 6

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必…

  • 7

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 8

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 9

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 10

    ウクライナ防空の切り札「機関銃ドローン」、米追加…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 10

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中