ベトナムの人権活動家、当局がタイで拉致? 米朝会談が影響との推察も
受難続くベトナムの人権活動家、ブロガー
ベトナムでは一党独裁の共産党政府の人権侵害や報道規制に対する批判は容認されていないことから、活動家やブロガーなどへの「弾圧」が続いている。
2018年8月9日には女性人権活動家でブロガーでもあるフィン・トゥク・ヴィーさんが逮捕されたのに続き8月16日には人権活動家レ・ディン・ルオン氏が国家転覆容疑で禁固20年の実刑判決を受けた。同年9月には活動家のグエン・ヴァン・トゥック氏が同様の容疑で禁固13年、同月17日には同じく人権活動家のドン・コン・ドゥオン氏が社会秩序混乱容疑で禁固4年の判決を受けている。
こうしたブロガーや活動家の相次ぐ逮捕、実刑判決による「言論封殺」に関して「国境なき記者団」(本部パリ)のダニエル・バスタート氏は、「タイ政府、捜査当局がもしこの件で何もしないのであれば問題である」としてタイ政府、関係機関にナット氏に関する捜査を要求するとともに、ナット氏と同じ境遇にあるタイで活動するベトナム人ブロガーや活動家に注意と警戒を呼びかけている。
タイ国内で活動するベトナム人活動家のひとりは、「今回のナット氏の事案は非常にセンシティブで複雑な問題を含んでおり、私自身の身に危険が及ぶ可能性もあって情報発信が難しい」と話しており、そうした国外活動家の安全になんらかの影響と懸念が生じていることを裏付けている。
米朝首脳会談に向けたベトナム政府の意向が今回のナット氏の「拉致」にも関係があるとすれば、首脳会談の開催を歓迎するベトナム側がその裏で密かに「言論弾圧と人権侵害」を強化しているとみられる。
RFAがすでに米国務省にナット氏の件に関する情報を提供していることから、米政府も問題を把握しているものとみられる。
さらに2月5日にワシントンDCの米議会でトランプ大統領が行った一般教書演説の議場には、民主党側のゲストとして2018年7月にベトナムで「反政府活動」容疑で身柄を拘束された米国人男性の妻が招待されるなど、米国内ではベトナムの人権問題への関心もが高まっている。
それだけに「人権外交」がお家芸である米政府がベトナム政府に対して問題提起するのか、あるいは米朝会談に不測の事態が外野から起きないよう黙認してしまうのか。関係者は米朝会談とともに今回の事件についてもその行方に大きく注目している。
[執筆者]
大塚智彦(ジャーナリスト)
PanAsiaNews所属 1957年東京生まれ。国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞社入社、長野支局、東京外信部防衛庁担当などを経てジャカルタ支局長。2000年産経新聞社入社、シンガポール支局長、社会部防衛省担当などを歴任。2014年からPan Asia News所属のフリーランス記者として東南アジアをフィールドに取材活動を続ける。著書に「アジアの中の自衛隊」(東洋経済新報社)、「民主国家への道、ジャカルタ報道2000日」(小学館)など
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